杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんと蘇る叡智

陰陽護持録』『魔神の叡智抄』『トオル魔法集成』の三冊は、日本政府からコピーが配布された直後、世界各国に衝撃を与えた。

外務省の外交ルートを通じて、すぐに要請が殺到した。

アメリカのハーバード大学は「魔神の叡智抄の原本閲覧と複製を希望する」と公式文書を送り、

イギリスのオックスフォード大学は「陰陽護持録の護符作成法を研究したい」と、

フランスのソルボンヌ大学は「トオル魔法集成の理論的基盤を共同研究したい」と、

ドイツのハイデルベルク大学は「ソロモンの魔神知識は中世以降のキリスト教弾圧で失われた異端の叡智の宝庫だ。資料として極めて価値が高い」と、

それぞれ日本政府に正式要請を出した。

特にソロモンの魔神の知識は、学者たちの間で「歴史の空白を埋める鍵」として熱狂的に語られた。

中世以降、キリスト教による異端審問と魔術弾圧で焼かれ、封印され、歴史から抹消された書物や秘儀の多くが、そこに記されていた。

悪魔の召喚ではなく、調和と知識の術。

天文学、錬金術、占星術、薬草学、精神操作の穏やかな応用……。

どれもが「悪魔学」として禁じられ、灰にされたはずの叡智だった。

あるドイツの神学・魔術史教授は、学会で声を震わせて言った。

「これは……中世の異端審問で失われた知識の復元だ。

キリスト教が『悪魔の知識』として焼き払ったものが、八歳の少年の手によって蘇った。

これは歴史の奇跡だ」

アメリカの民俗学研究者は、論文の冒頭にこう書いた。

「佐藤トオルが編集した『魔神の叡智抄』は、ソロモン王の伝説的叡智を、現代に甦らせた唯一の資料である。

これを研究せずに、異端史を語ることはできない」

要請は政府に殺到し、外務省は対応に追われた。

「原本の貸与は不可能。

コピーのさらなる配布も、機密保持のため制限せざるを得ない」

だが、トオル本人が知れば「みんなが幸せになるなら」と、喜んでコピーを渡すだろうことは、誰もがわかっていた。

政府は慎重に、しかし着実にコピーを配布していった。

信頼できる大学・研究機関に限り、厳格な守秘義務を課して。

トオルは、そんな世界の動きを知らずに、基地の広場でみんなと遊んでいた。

七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。

「本、みんなに渡せたみたい……よかった」

杖くんが耳元で優しく囁いた。

『トオルちゃん……あなたの書いた本が、世界中の学者さんたちを喜ばせてるわ。

失われた知識が蘇って、みんなが幸せになる……あなたの優しさが、歴史を繋いだのよ』

コッコロがトオルの手を握り、穏やかに言った。

「トオル様……あなたは、本当に素晴らしい方です。

私たちも、誇りに思います」

基地の外では、春の風が吹き始めていた。

ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。

トオルの本は、世界の研究機関で読み継がれ、新しい時代を切り開いていた。

人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、失われた知識を、静かに蘇らせ続けていた。

霧の港町は、少年の図鑑と、世界の新たな学びに包まれながら、輝き続けていた。

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