杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんと法王庁の審議

バチカン市国、法王庁の秘密会議室は、厳かな沈黙に包まれていた。

円卓を囲むのは、ヨハネ・パウロ二世法王と、数名の枢機卿、そして法王庁特務局第13課「イスカリオテ」の長、エンリコ・マクスウェル神父だった。

部屋の中央には、岩内から極秘ルートで入手したトオルの報告書と、ソロモンの魔神に関する資料が広げられている。

法王は、疲れた眼差しを資料に落としたまま、静かに口を開いた。

「極東の少年……佐藤トオル。

まだ八歳でありながら、ダンジョンの深淵を探索し、ソロモンの七十二の魔神の知識を手に入れたという。

これは、教義に照らして異端の極みだ。

しかし……」

法王は言葉を区切り、枢機卿たちを見回した。

「ダンジョンの脅威は、世界中に知れ渡っている。

銃火器すら意味をなさない怪物が潜む場所。

軍ですら三十階が限界なのに、あの少年はそれより深い階層に毎日のように潜っている。

教義を優先して彼を排除すれば、日本が滅び、世界に広がる可能性もある。

その責任は、誰が取る?」

一人の老枢機卿が、重い息を吐いた。

「法王猊下……確かに、魔法は異端です。

中世の異端審問でも、こうした力は徹底的に焼き払われました。

しかし、今は時代が違う。

あの少年がいなければ、ジェイソンやゼノモーフが地上に溢れていたかもしれない……」

エンリコ・マクスウェルは、黒い法衣を纏ったまま、冷たい笑みを浮かべた。

彼の目は、狂信的な光を宿している。

「猊下。

異端は異端です。

ソロモンの魔神の知識など、悪魔との契約そのもの。

あの少年が生きている限り、悪魔の力が地上に広がる危険性は拭えません。

排除すべきです。

イスカリオテが動けば、確実に……」

法王は静かに手を挙げ、マクスウェルを制した。

「エンリコ……君の熱意はわかる。

しかし、日本が滅びれば、それで終わりではない。

もしダンジョンの怪物が世界中に広がったら?

教義を守るために、人類全体を危険に晒すのか?」

マクスウェルは唇を噛み、しかしすぐに頭を下げた。

「……猊下のお言葉の通りです。

ですが、少年の力は危険すぎる。

魔神の知識を自由に扱うなど……いずれ悪魔の誘惑に落ちる可能性も」

別の枢機卿が、資料を指差しながら言った。

「報告書によれば、トオルは魔神たちに『人の為に』とだけ伝え、害意のない知識だけを吸収しているようです。

また、十二天将や魔神たちが彼に協力しているのも、少年の純粋な心に惹かれたからだという。

教義を曲げてまで排除するのは……あまりに早計ではないか」

法王は深く息を吐き、目を閉じた。

「私は、祈るしかない。

トオルという少年が、神の御心に沿った道を歩むことを。

日本政府には、慎重に協力するよう伝えてくれ。

排除ではなく、導く道を探るのだ」

マクスウェルは静かに立ち上がり、退出する前に低く呟いた。

「……猊下。

もし少年が悪魔の側に傾いたら……その時は、イスカリオテが動きます。

異端は、許されません」

会議室の扉が閉まり、部屋に再び重い沈黙が落ちた。

法王は、窓の外のバチカンの夜空を見上げ、静かに祈りを捧げた。

「神よ……あの幼き者を、導きたまえ……」

遠く岩内では、トオルが食堂でみんなと一緒に食事をしていた。

七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。

「みんな、元気だね……僕、もっとがんばるよ」

杖くんが耳元で優しく囁いた。

『トオルちゃん……世界の頂点にいる人たちも、あなたのことを想ってるわ。

あなたの優しさが、教義の壁すら越えて届いてるのよ』

基地の外では、雪が静かに降り続いていた。

ガンダムとザクが広場に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。

法王庁の審議は、トオルの存在を「異端」としてではなく、「希望」として見つめ始めていた。

人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の祈りと、静かな審判を、受け止め続けていた。

霧の港町は、少年の光と、遠いバチカンの祈りに包まれながら、輝き続けていた。

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