杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんと失われた神話

トオルがダンジョンに潜るようになってから、ちょうど二年が経っていた。

岩内自衛隊基地の地下研究室では、少年の机の上に新しいゲームソフトの箱が置かれていた。

初代『ドラゴンクエスト』。

トオルはゲーム画面を食い入るように見つめながら、杖くんに言った。

「杖くん……このゲーム、魔法やアイテム、モンスターがいっぱいだよ。

僕の魔法に似てるものがたくさんある……」

杖くんは銀髪を優しく揺らし、いたずらっぽく微笑んだ。

『ふふ、トオルちゃんったら。また新しい知識の種を見つけたのね。

ドラゴンクエストの魔法……あなたなら、すぐに自分のものにしちゃうわ』

さらに、トオルは自衛隊の協力で『ゼルダの伝説』も入手した。

小さな画面の中でリンクが剣を振るう姿を見て、トオルは目を輝かせた。

「ゼルダの伝説……この剣や盾、魔法のアイテム……僕の召喚魔法と組み合わせたら、もっと強くなれるかも」

自衛隊はトオルの要望を快く聞き入れ、ゲームソフトを特別に提供した。

トオルはそれらを基に、魔法の武具を精製し始めた。

ミスリル刀にゼルダ風の魔法付与を加え、一般向けの簡易ポーションも開発した。

しかし、ポーションの価格設定で少し問題が起きた。

トオルは「子供のお小遣いで買えるようにしたい」と言い出したのだ。

会議室で、胡蝶しのぶが優しく諭した。

「ふふ、トオルくん……気持ちは嬉しいですけど、それでは市場が崩れますわ。

他の産業も困るし、ポーションは命に関わるもの。

適正な価格にしましょうね」

トオルは少し残念そうに頷いた。

「うん……わかった。

僕、金銭に執着はないから……みんなが安心して買えるようにしたいだけだったんだけど」

杖くんがトオルの頭を撫でながら、

『トオルちゃんの優しさが、時々困らせるのよね。でも、それがあなたらしさよ』

そんなある日、トオルは古い本の山の中から、クトゥルフ神話大系の資料を見つけた。

興味を引かれ、召喚を試みようとした瞬間――

杖くんが、初めて厳しい声で止めた。

「トオルちゃん……それは、絶対にダメよ」

ガンダルフも杖を突き、珍しく強い口調で言った。

「少年よ……クトゥルフ神話の神々は、中つ国のどの神よりも強力で、悍ましく、恐ろしい存在だ。

グインの故郷にも似た神がいたが……あれは、触れてはならない闇だ」

Dも、黒いマントを翻し、トオルの手から本を静かに奪い取った。

「俺の世界でも……強大な邪神だった。

触れるな」

トオルは驚いて目を丸くした。

「え……そんなに危ないの?」

杖くんが優しく、しかしきつく諭した。

「ええ……この神話は、人の理を超えた狂気。

召喚したら、世界そのものが壊れるかもしれない。

あなたは優しい子だからこそ、絶対に近づいてはいけないの」

トオルは素直に頷き、本を封印した。

「うん……わかった。

みんなが危ないなら、僕、触らないよ」

この時期、トオルはまだ四百階の探索を続けていた。

Dやメフィストの世界は、トオルのいる地球の「別未来」であるため、二人は決して未来の情報を教えることはなかった。

「未来を変える行為は、許されない」

Dは短く、そう言い切った。

メフィストも、赤い瞳を細めて微笑んだ。

「ふふ……君の未来は、君自身が切り開くものだよ」

トオルは二人の言葉を胸に、静かに頷いた。

「うん……僕、自分の力で、みんなを守るよ」

基地の外では、春の風が吹き始めていた。

ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。

トオルは、禁じられた神話の本を封印し、代わりにドラゴンクエストやゼルダの知識を、みんなの役に立つ形で発展させていった。

人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、危険な闇を避け、優しい光を、静かに育て続けていた。

霧の港町は、少年の純粋さと、封じられた禁忌に守られながら、輝き続けていた。

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