杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内自衛隊基地の外周に設けられた「エルフ居住区」は、仮設テントから徐々に木造の長屋へと変わり始めていた。
霧の港町に、初めて「異世界の民」が根を下ろした瞬間だった。
エルフたちにとって、地上の暮らしは予想以上に「大変」だった。
まず、水道。
ダンジョンでは湧き水か、精霊の加護で湧き出る清らかな泉しか知らなかった。
蛇口をひねると突然水が出ることに、最初は皆が驚き、恐れさえした。
「これは……魔法か?」
長老のエレンディルが、蛇口から勢いよく出る水を掌で受け止め、目を丸くした。
子供たちは水が止まらないことに興奮し、笑いながら手を突っ込んで遊ぶ。
大人たちは、慌てて「無駄に使うな!」と叱る。
トイレの水洗、電気の灯り、ガスコンロ……一つ一つが「魔法」ではない「科学」の産物だった。
しかし、便利さはすぐに理解された。
ダンジョンでの火起こしや水汲みの苦労が嘘のように消え、
「こんなに楽でいいのか……」と呟く者もいた。
食事もまた、大きな変化だった。
エルフは草食と思われがちだった。
実際、ダンジョンでは食べられる草や果実が限られていたため、そう見えていただけだ。
地上の肉を初めて口にした時、長老たちは驚きを隠せなかった。
あばれうしどりのステーキを一口食べ、エレンディルが静かに言った。
「……こんなに美味しいものがあるなんて」
子供たちは軍隊ガニの身を頰張り、目を輝かせた。
「おいしい! もっと食べたい!」
雑食であることが判明したエルフたちは、肉や魚にもすぐに慣れていった。
ダンジョンサーモンの刺身を食べた戦士の一人が、
「これなら、毎日でもいいな……」
と呟くほどだった。
自衛隊の隊員たちは、そんなエルフたちを優しく見守った。
煉獄杏寿郎三佐は、大きな声で笑いながら、
「うむ! エルフの皆さん、もっと食え!
トオルが採ってきた食材は、まだまだあるぞ!」
胡蝶しのぶが微笑みながら、
「ふふ……お肉もお魚も、栄養たっぷりですわ。
お子さんたち、たくさん食べて大きくなってくださいね」
胡蝶カナエが穏やかに頷き、
「あらあら、地上の食べ物も気に入ってくださって嬉しいわ。
これからもっと、色々なものを味わいましょうね」
トオルは、エルフの子供たちと一緒に座り、みんなが食べる姿を見て、優しく笑った。
「みんな、美味しいって言ってくれて……よかった」
杖くんが耳元で囁いた。
『トオルちゃん……エルフさんたち、地上の暮らしに慣れてきてるわ。
あなたが連れてきてあげたからよ』
基地の外では、春の風が吹き始めていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちがミスリルの刀を手に訓練を続ける。
エルフたちは、少しずつ、地上の便利さと美味しさに慣れていった。
水道の使い方、電気の灯り、肉の味……すべてが「新しい魔法」のように感じられた。
トオルは、エルフの子供たちと一緒に遊びながら、静かに願った。
「みんなが、ずっと幸せでいられますように……」
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、異世界の民に、静かに地上の温もりを教え続けていた。
霧の港町は、少年の優しさと、エルフたちの新しい暮らしに包まれながら、輝き続けていた。