杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
ジョージア州アトランタ郊外の広場では、白いフードとローブに身を包んだ男たちが、十字架を掲げて叫んでいた。
クー・クラックス・クラン――K・K・K。
彼らのプラカードには、赤い文字でこう書かれていた。
「優秀なる白人の血を汚すアジアの魔女を排除せよ」
「異端の魔法は神の敵。九歳の有色人種を即刻抹殺せよ」
「トオル・サトウは下等種族。神の名の下に殺せ」
数百人のデモ隊は、州警察の壁と対峙していた。
警官たちは盾を構え、催涙ガスを準備し、緊張した面持ちで睨み返す。
さらに後方には、州兵の装甲車が並び、機銃が静かにデモ隊を捉えていた。
一人のK・K・Kリーダーが、拡声器を握りしめて叫んだ。
「我々は神の意志を実行するだけだ!
優秀な白人ではなく、下等な有色人種が魔法という異端を使っている!
あれは悪魔の力だ!
即刻、殺すべきだ!」
群衆が一斉に吼えた。
「殺せ!」「白人の誇りを守れ!」「アジアの魔女を吊るせ!」
警察の指揮官が、マイクで警告を発した。
「これ以上近づくな! これは違法集会だ! 直ちに解散せよ!」
しかしデモ隊は動かない。
石が投げられ、催涙ガスが放たれ、混乱が広がった。
州兵が前進し、盾で押し返す。
逮捕者が次々と連行されていく中、K・K・Kの男たちはなおも叫び続けた。
裏では、別の動きが始まっていた。
高額な依頼料――一千万ドル以上――が、闇のネットワークを通じて世界最高のスナイパーに届いていた。
ゴルゴ13――デューク・トーゴ。
依頼内容は単純だった。
「佐藤トオルを暗殺せよ。
場所は問わない。報酬は前金半分、成功後残り」
しかし、ゴルゴ13は依頼書を一瞥しただけで、冷たく捨てた。
彼は今、ニューヨークの地下工房にいた。
ガンスミスのデイブ・マッカートニー――ゴルゴの武器を長年担当する男――の店だ。
デイブは、M16のカスタムパーツを磨きながら、テレビのニュースに目をやっていた。
画面では、K・K・Kのデモが映し出されている。
「また奴らか……」デイブが苦笑した。「トオルってガキを狙ってるらしいな。
お前にも依頼が来てるって話だぜ、ゴルゴ」
ゴルゴ13は、カウンターに寄りかかり、無表情で煙草をくわえた。
黒い髪に長いサイドバーン、冷たい瞳。
言葉は最小限だった。
「……知っている」
デイブは肩をすくめた。
「どうする? 報酬は破格だ。
K・K・Kの連中、必死だぜ」
ゴルゴは、ゆっくりと煙を吐いた。
その声は、氷のように冷たい。
「依頼主は、成功後に裏切る。
私は、裏切りを許さない。
それが私のルールだ」
彼は依頼書を指で弾き、床に落とした。
テレビでは、デモ隊と州兵の衝突が続いていた。
「この仕事は、受けない」
デイブは小さく笑った。
「相変わらずだな、お前は。
まあ、生き延びるコツだ」
ゴルゴ13は、煙草を灰皿に押しつけ、静かに工房を出た。
K・K・Kの叫び声は、テレビ画面の中で虚しく響き続けていた。
遠く岩内では、トオルが基地の食堂でみんなと一緒に食事をしていた。
九歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「みんな、元気だね……僕、もっとがんばるよ」
そんな彼の存在が、アメリカの闇の中で、静かに標的とされていた。
しかし、世界最高のスナイパーは、ただ一言でその影を切り捨てた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、世界の憎悪を、知らずに受け止め続けていた。
霧の港町は、少年の光と、遠い白い十字の影に包まれながら、輝き続けていた。