杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんと三十階の異形たち

霧の港町は、すでに世界中のシェフとバイヤーで溢れかえっていたが、基地の地下では別の戦いが続いていた。トオルは毎日、三十階以降の深層へ潜る。そこは自衛隊の携帯銃火器では到底対処できない領域。怪物たちの脅威が、密度を増して待ち構えていた。

今日も、仮面ライダー1号と2号、V3、ストロンガーたちが先頭に立ち、デスナイトが無言で盾を構え、エルダーリッチが青白い輝きを放ちながら後衛を固める。妖精たちは淡い光を散らし、トオルの周囲を守る。杖くんは人の姿でトオルの隣に歩き、銀髪を優しく揺らしていた。

「トオルちゃん、気をつけてね。ここから先は本当に危ないわ」

「うん……僕、みんなを傷つけないようにするよ」

三十階の森は、突然雪と砂が混じり、物理法則すらねじ曲げていた。そこに現れたのは、飛竜種のイヤンクック――怪鳥。桃色の外殻に覆われた巨大な鳥竜で、頭には発達した大きな耳と鋭い嘴が目立つ。翼を広げて低空を滑空し、口から火炎の玉を吐き出す。地響きを立てて突進し、獲物を焼き尽くす。銃弾など通じず、ただの人間なら一瞬で灰になる。

トオルは静かに手を上げた。即死の魔法。害意ある存在には、痛みなく安らかに。イヤンクックは炎を吐こうとした瞬間、体を震わせ、翼を畳んで地面に崩れ落ちた。苦痛の叫びすらなかった。

「ありがとう……」

トオルは両手を合わせ、短く黙禱する。仮面ライダーたちが骸を収納空間へ運ぶ。イヤンクックの外殻は軽量で耐熱性が高く、研究資料として価値があった。

さらに奥へ進むと、甲殻種のダイミョウザザミが待ち構えていた。巨大な盾蟹。赤い硬い甲殻に覆われ、背中には巨大な頭骨のような甲羅を背負い、巨大な爪で地面を抉りながら迫ってくる。ハサミの一撃は戦車をも砕く。毒の泡を撒き、砂に潜んで待ち伏せする。銃火器では甲殻を貫けず、自衛隊の部隊は近づくことすら許されない。

トオルは再び魔法を放つ。ダイミョウザザミはハサミを振り上げたまま、静かに動きを止め、甲羅を地面に預けた。安らかな死。トオルは祈りを捧げ、骸を資料として持ち帰る。甲殻は防具素材として、爪は工具として、研究者たちの目を輝かせる。

そして、複数のババコンガ――牙獣種の桃毛獣――を引き連れた群れ。ピンクの毛むくじゃらの巨大な猿型魔物。体は筋肉質で二足歩行し、好物であるキノコを口にくわえたまま、毒の息を吐き、炎の玉を投げ、さらには強烈な放屁で周囲を毒ガスで満たす。臭気と衝撃波が混じり、接近戦では最悪の相手。群れで連携し、獲物を囲んで襲う。

トオルは一瞬で全員に即死魔法を浴びせた。ババコンガたちはキノコをくわえたまま、ふっと力を失い、毛並みを乱さずに倒れた。トオルは祈る。毛皮は保温性が高く、肉は意外に食用可能。研究資料として、DNA解析が待っている。

三十階以降は、そんな怪物ばかりだった。それ以外にも、アンデッドの骸骨騎士や腐敗したゾンビの群れ、獣人種の狼人間や猫人間のような知性ある存在、巨大な食人植物が蔓を伸ばして獲物を飲み込む……多彩な脅威が溢れていた。これらはすべて装備や食用になるわけではない。だが、研究資料としての価値は極めて高かった。

特にアンデッド系だけは、地上に持ち帰る危険性があるため、その場で完全に処分される。エルダーリッチが静かに指示を出し、魔力の炎で焼き払う。デスナイトが無言で斧を振り下ろす。

基地の研究室では、生物学者たちが興奮を隠せずにいた。煉獄杏寿郎が大声で笑い、胡蝶しのぶが微笑みながらメモを取り、胡蝶カナエが穏やかにデータを整理する。

「うむ! これらのDNAは、地球の動物に極めて似ている。鳥類、蟹類、猿類……だが、決定的に違う! 遺伝子配列が、まるで色々な世界が一つに混ざったかのようだ!」

一人の研究者が、顕微鏡から顔を上げて叫んだ。

「イヤンクックの火炎腺は、地球の火炎鳥類とは構造が違う。ダイミョウザザミの甲殻は、深海生物と爬虫類が融合したよう。ババコンガの毒素は、キノコと哺乳類のハイブリッド……これは、複数の異世界がダンジョン内で融合した証拠です!」

トオルは探索から戻り、研究室のガラス越しにその話を聞いた。炭治郎が隣で静かに頷く。

「トオルくん……君が持ち帰る資料のおかげで、科学が一気に進んでるよ」

トオルは杖くんを握りしめ、少し寂しげに微笑んだ。

「僕、ただ……無駄にしたくないだけだよ。みんなのために」

杖くんが、優しくトオルの肩を抱いた。

『トオルちゃんの優しさが、世界を広げてるのよ。善悪の狭間で、あなたはちゃんと祈ってる。それでいいわ』

仮面ライダーたちが静かに並び、デスナイトは無言で頷き、エルダーリッチが「主よ、汝の選択は正しい」と低く語る。

三十階以降の深淵は、まださらに深い。

だが、トオルは一歩ずつ進む。痛みなく、安らかに。祈りを忘れずに。

人類史上最大の魔法使いは、異形たちのDNAが織りなす「融合の世界」を、静かに解き明かしながら、地上への道を切り開いていた。

霧の港町は、食と鉱と科学の街へと変わり続けている。

物語は、まだ深く、深く続いていく。

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