杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
東京・永田町の国会周辺では、プラカードを掲げた人々が声を上げていた。
「九歳の子どもを戦場に送るな!」
「トオル君の人権を守れ!」
「児童労働の根絶を!」
人権団体「子どもを守る会」と、障碍者支援団体「未来の翼」が合同で、政府に要請書を提出した。
内容はシンプルだった。
「佐藤トオル君(9歳)をダンジョン探索から即時撤退させよ。
児童の権利を侵害する行為は、国際人権基準に反する」
記者会見で、団体の代表者がマイクを握った。
「たとえダンジョンが脅威であっても、子どもを危険に晒すことは絶対に許されません。
政府はトオル君を保護し、普通の学校生活を送れる環境を整えるべきです」
野党の議員も、一部が同調した。
「確かに、九歳の子どもが毎日命がけで探索しているのは異常です。
人道的観点から、見直すべきではないでしょうか」
しかし、政府側は苦い顔で応じるしかなかった。
中曽根康弘総理は、官邸で側近たちと会議を開きながら、ため息をついた。
「現実が見えていない……
自衛隊ですら三十階が限界だというのに、トオル君がいなければ人類の危機だということが、まったく理解できていない」
安倍晋太郎外務大臣が、資料を指差しながら言った。
「彼らは『人権』と『児童保護』を前面に押し出していますが……
裏では、トオル君が巨額の富を稼いでいることが許せないのでしょう。
自分たちの利権が失われていくのが怖い。
甘い考えで、政府が動くと信じているようです」
防衛庁長官も、静かに頷いた。
「人権団体や障碍者支援団体は、確かに大切な役割を果たしています。
しかし、ダンジョンの現実を知らない。
トオル君が探索をやめれば、ジェイソンやゼノモーフが地上に溢れ、障害者どころか人類全体が危機に陥るということが、見えていないのです」
トオルは、そんな動きなど知らずに、基地の食堂でみんなと一緒に食事をしていた。
九歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「みんな、元気だね……僕、もっと採ってくるよ」
煉獄杏寿郎が大きな声で笑い、
「うむ! トオル、お前は日本の希望だ!
外で何を言おうと、俺たちはお前を守るぞ!」
胡蝶しのぶが優雅に微笑み、
「ふふ……人権団体さんたちも、トオルくんのことを心配してくださっているようですわね。
でも、現実を知らないと、こういうことになりますのよ」
胡蝶カナエが穏やかに頷き、
「あらあら、トオルくんが探索をやめたら、本当に大変なことになるのに……
甘い考えで動いているみたいね」
炭治郎が静かに、
「トオルくん……お前は、みんなの為に戦ってる。
僕たちは、それをちゃんとわかってるよ」
トオルは少し首を傾げた。
「え? 何かあったの?」
新城直衛大佐が、静かに答えた。
「心配するな。
政府は、トオル君の安全と活動を最優先に守る。
外の声に惑わされることはない」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……人権を掲げる人たちも、結局は自分の利権を守りたいだけみたいね。
でも、あなたの優しさは、そんな声なんかじゃ止まらないわ』
基地の外では、夏の風が吹いていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。
人権団体と障碍者支援団体の要請は、国会で何度か取り上げられたが、
「ダンジョンの現実を直視せよ」という与野党の声に押され、結局、具体的な動きには至らなかった。
トオルは、知らぬ間に「人権の名の下に排除されかけた」存在となりながらも、
九歳の心で、ただ「みんなを守りたい」と、深淵へ足を踏み入れ続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、静かに、世界の声と現実の狭間で、光を灯し続けていた。
霧の港町は、少年の優しさと、守られた日常に包まれながら、輝き続けていた。