杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内自衛隊基地の特別鍛冶場は、いつにも増して熱気と緊張に満ちていた。
炉の火が赤々と燃え上がり、鉄槌の音が響き渡る中、
これまでいた日本の名だたる刀鍛冶たちに加えて、新たな影が現れた。
ドワーフたちだった。
オベロンとティターニアが推挙した、妖精の国に住まう伝説の鍛冶師たち。
彼らは皆、がっしりとした体躯に長い髭を蓄え、頑丈な革の前掛けを着けていた。
その瞳には、古い山の記憶と、鍛冶の炎が宿っている。
リーダー格のドワーフ――ドワーフ王の血を引くというバルドゥールは、
ミスリルの塊と、トオルが持ち帰ったオリハルコンの原石を前に、腕を組んで低く唸った。
「ふむ……これは素晴らしい素材だ。
ミスリルは軽く、しなやかで、魔力をよく通す。
オリハルコンは硬く、重厚で、炎すら受け止める。
トオル殿に相応しい剣を打つとなれば……」
隣に立つ、もう一人の老ドワーフ、グリムニルが髭を撫でながら言った。
「単なる強さだけでは足りぬ。
主の心を映し、守るための刃でなければならん。
ティルフィングを鍛えた我々の技を、存分に発揮しようではないか」
人間の刀鍛冶たちは、ドワーフたちの会話に耳を傾け、目を丸くしていた。
村正の末裔である老職人が、思わず呟いた。
「……あの鍛冶の腕、尋常ではない。
ミスリルとオリハルコンの相性を、一目見ただけで見抜いている。
我々が何年もかけて学んだことを、瞬時に理解しているようだ」
正宗の流れを汲む若い鍛冶師も、感嘆の声を上げた。
「オリハルコンを叩く音……まるで生き物のように響く。
人間の技では到底真似できない……」
ドワーフたちは、素材の山を前に熱く議論を始めた。
バルドゥールが、ミスリルの塊を手に取りながら言った。
「トオル殿は優しい心の持ち主だ。
だから、剣はただ強く、鋭いだけではいかん。
守るための優しさも宿さねば。
ミスリルを基調に、オリハルコンを芯に据え、
ドラゴンの骨で柄を補強し、妖精の銀糸で魔力を安定させる……どうだ?」
グリムニルが頷き、
「いい案だ。
さらに、老竜の鱗を薄く重ねれば、魔力の反射も強くなる。
呪いは一切入れぬ。
オベロン王とティターニア女王から、厳命を受けているからな」
もう一人のドワーフ、ドゥリンガルが笑いながら加わった。
「ふはは! トオル殿のためなら、俺の全霊を捧げよう。
この剣は、ただの武器ではない。
主の想いを形にした、守護の象徴だ」
人間の刀鍛冶たちは、ドワーフたちの会話に圧倒されながらも、目を輝かせていた。
一人の若い職人が、恐る恐る尋ねた。
「あの……我々も、手伝わせていただけますか?
ミスリル刀を打つ経験はありますが、
ドワーフの技を間近で見て、学びたいのです」
バルドゥールは、髭を大きく揺らして笑った。
「ほう、意気があるな、人間よ。
よかろう。
我々と共に、トオル殿のための最高の剣を打とうではないか!」
鍛冶場に、再び鉄槌の音が響き始めた。
ミスリルとオリハルコンが、炎の中で溶け合い、
ドワーフと人間の技が融合していく。
トオルは、鍛冶場の隅でその様子をじっと見つめていた。
九歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく微笑んだ。
「みんな、僕のためにそんなに頑張ってくれて……ありがとう。
どんな剣ができても、きっと大切にするよ」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……妖精王と女王が推挙したドワーフたちよ。
彼らが本気で剣を打てば、それはもう伝説になるわ。
あなたのために、ね』
鍛冶場の炎は、夜通し燃え続けた。
ドワーフと人間の職人たちが、心を一つにして、
トオルのための新たな剣を、静かに、しかし熱く鍛え上げていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、伝説の鍛冶師たちを迎え入れ、
守るための刃が誕生する瞬間を、静かに見守り続けていた。
霧の港町は、少年の優しさと、炎の響きに包まれながら、輝き続けていた。