杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんと剣の異才

岩内自衛隊基地の訓練場は、秋の澄んだ空の下で静かな緊張に包まれていた。

各流派の師範代たちが、トオルの周りに集まり、一人の男を紹介した。

本部以蔵。

細身で、鋭い目つきをした中年男性。

黒い道着に身を包み、静かに立っているだけで、周囲の空気が引き締まるような存在感があった。

彼は、師範代たちから「本部流柔術の師範にして、武芸百般の達人」と称される男だった。

柳生新陰流の師範代が、静かに言った。

「トオル君。この方は本部以蔵先生だ。

柔術だけでなく、剣術、棒術、鎖鎌……ありとあらゆる武術に精通しておられる。

今日から、あなたに戦い方を伝授していただけることになった」

本部以蔵は、トオルの前に静かに歩み寄り、軽く頭を下げた。

その声は低く、落ち着いていた。

「本部以蔵だ。

よろしくな、トオル君」

トオルは、九歳の瞳を輝かせて深くお辞儀をした。

「よろしくお願いします、本部先生!

僕、たくさん教えてください」

本部は、わずかに目を細め、すぐに実技に移った。

最初は基本の体捌きと関節技。

次に、相手の力を利用した投げ技。

さらに、間合いを詰める歩法と、急所を突く指技……。

本部以蔵は、戦国時代から伝わる実戦的な技術を、容赦なく、しかし的確にトオルに叩き込んだ。

トオルは、一度聞いたことを決して忘れず、教えられた技術を即座に自分のものにした。

さらに、それを魔法と融合させ、応用していく。

本部の投げを逆手に取り、魔法の足捌きで翻弄する。

関節技をかわし、魔力の流れで相手のバランスを崩す。

本部以蔵は、最初は淡々と指導していたが、徐々に言葉を失っていった。

数日後、彼は弟子の花田純一を連れてきた。

花田純一は、がっしりとした体躯の青年で、本部の直弟子として知られる実力者だった。

本部は、トオルと花田の組手を提案した。

「やってみろ。

トオル君、お前の実力を、花田にぶつけてみろ」

組手が始まると、訓練場は静まり返った。

花田純一は、力強く攻め込んだ。

しかし、トオルは軽やかに動き、花田の攻撃をかわし、魔法を交えた柔らかな技で翻弄した。

あっという間に、花田は手玉に取られ、地面に転がされた。

花田は、地面に倒れたまま、呆然と天井を見つめた。

「……これは……子供か?」

本部以蔵は、腕を組んだまま、声も出なかった。

数秒の沈黙の後、低く呟いた。

「九歳で、ここまで……

弟子の花田を手玉に取るほどか。

これでまだ子供だというのか……将来が恐ろしいな」

師範代たちも、息を飲んで見守っていた。

柳生の師範代が、静かに言った。

「本部先生の教えを、ここまで短期間で吸収し、昇華するとは……

トオル君は、本当に剣の神が宿ったような才能だ」

本部以蔵は、トオルの肩に軽く手を置き、珍しく柔らかい声で言った。

「トオル君……お前は、俺の教えを越えた。

これからは、お前の剣を信じて進むがいい。

俺は、いつでもここにいる」

トオルは、汗を拭いながら、にっこりと笑った。

「本部先生、ありがとうございます!

花田さんも、強かったです!

僕、もっと強くなりたいです」

花田純一は、地面から立ち上がり、苦笑しながら頭を下げた。

「……負けたよ、トオル君。

お前は本当にすごいな」

杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。

『トオルちゃん……武芸百般の男でさえ、あなたの才能に驚いているわ。

あなたは、剣でも魔法でも、みんなを驚かせるのね』

訓練場の風が、秋の匂いを運んでいた。

ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。

トオルは、本部以蔵から受けた新たな技術を胸に、

静かに、しかし確実に、自分の道を歩み続けていた。

人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、武芸の深淵をも、優しく吸収し続けていた。

霧の港町は、少年の光と、古き武芸の響きに包まれながら、輝き続けていた。

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