杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内自衛隊基地の訓練場では、秋の陽が木刀の刃を優しく照らしていた。
本部以蔵は、トオルの稽古を見終えた後、静かに木刀を下ろした。
九歳の少年は息を整えながらも、目を輝かせて本部を見つめている。
本部は、トオルの小さな肩に軽く手を置き、低く落ち着いた声で言った。
「トオル君……お前は剣の才能が抜群だ。
だが、剣だけでは足りぬ。
徒手空拳を極めるなら、空手の愚地独歩から学ぶといい。
あれは、ただの格闘技ではない。
人間の限界を突き詰めた、究極の空手だ」
トオルは、素直に頷いた。
「愚地独歩さん……わかりました。
どんな人なんですか?」
本部は、わずかに目を細めて続けた。
「合気道なら、渋川剛気。
小柄な体で巨漢を投げ飛ばす技は、見る価値がある。
棒術、槍術、あるいは現代の軍隊格闘技も勉強になるだろう。
お前はまだ九歳。
剣だけでなく、すべての武を吸収できる年齢だ。
その才能を、無駄にするな」
トオルは、木刀を胸に抱きながら、真剣な顔で答えた。
「はい……本部先生。
僕、剣も、素手も、棒も、槍も……全部学んで、みんなを守れるようになりたいです」
本部以蔵は、珍しく口元を緩めた。
「ふむ……お前の目は本物だ。
愚地独歩や渋川剛気のような達人から学べば、必ずお前の武は深まる。
ただし……忘れるな。
武は、強くなるためだけではない。
守るためのものだ」
その言葉を聞いたトオルは、にっこりと笑った。
「わかりました!
守るための武……僕、がんばります!」
少し離れたところで、師範代たちが静かに見守っていた。
柳生新陰流の師範代が、感心したように呟いた。
「本部先生が、あそこまで熱心に指導するとは……
トオル君は、本当に特別だな」
示現流の師範代も、腕を組んで頷いた。
「愚地独歩や渋川剛気の名を出すとは……
本部先生も、トオル君の将来を本気で考えているようだ」
トオルは、木刀を置いて本部に深く頭を下げた。
「本部先生、今日はありがとうございました!
また、教えてくださいね」
本部以蔵は、静かに頷き、トオルの頭を軽く撫でた。
「いつでも来い。
お前の剣は、まだまだ伸びる」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……武芸百般の男が、あなたの才能を認めてるわ。
これで、また新しい道が開けるのね』
訓練場の風が、秋の匂いを運びながら、トオルの小さな背中を優しく撫でた。
九歳の少年は、剣と武の道を学びながら、
静かに、しかし確実に、みんなを守るための力を育て続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、武の達人たちに導かれ、
新たな可能性を、優しい心で吸収し続けていた。
霧の港町は、少年の光と、古き武芸の響きに包まれながら、輝き続けていた。