杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんと達人の領域

北海道・岩内自衛隊基地の屋外訓練場に、冷たい秋風が吹き抜けていた。

その日、二人の男が基地を訪れた。

愚地独歩と渋川剛気。

二人は、本部以蔵からの電話を受け、はるばる北海道まで足を運んだ。

新聞やテレビでトオルの活躍は知っていた。

九歳(現在は十歳になった)の少年が、ダンジョンの四百階を単独で探索していること。

自衛隊ですら三十階が限界であること。

魔法という未知の技術を使っていること。

しかし、実際にその少年の姿を目の当たりにした瞬間、二人は言葉を失った。

訓練場の中央で、トオルは木刀を手に、静かに構えていた。

十歳の小さな体が、まるで一流の剣士のように刀を振るう。

足捌きは軽やかで、腰の回転は鋭く、刃の軌道は無駄が一切ない。

一度教わった型を即座に自分のものにし、さらに自分の魔法と融合させて新しい動きを生み出している。

愚地独歩は、鋭い目でトオルを見つめ、静かに息を飲んだ。

「……あれが、トオルか」

渋川剛気も、小柄な体をわずかに前傾させ、感嘆の声を漏らした。

「本部が言っていた『恐ろしいものが見れる』というのは、嘘ではなかったな……

十歳の子供が、ここまで達人の領域を超えているとは」

本部以蔵が、二人の横に立ち、低い声で言った。

「どうだ?

俺が長年かけて磨いた技を、数日で吸収し、発展させている。

剣だけでなく、柔術、合気、棒術……すべてを自分のものにしようとしている。

どれだけ才能に恵まれていようとも、ここまで凄い子供がいるとは、俺も思わなかった」

愚地独歩は、腕を組み、トオルの動きを一瞬も見逃さずに観察した。

「戦国時代や幕末に生まれていたら……歴史に名を残す剣豪になっていただろう。

いや、それ以上だ。

宮本武蔵や佐々木小次郎、沖田総司、土方歳三が見たら、驚愕するに違いない」

渋川剛気は、静かに頷きながら言った。

「現代では必要とされない実戦を想定した剣術を、ここまで磨いている。

しかも、魔法という技術と融合させている……

これは、もう剣術の域を超えている。

達人の領域など、とうに通り過ぎているな」

トオルは、木刀を振るう手を止め、二人の視線に気づいて小さく頭を下げた。

「愚地先生、渋川先生……本部先生からお話を伺いました。

今日は、よろしくお願いします!」

愚地独歩は、わずかに口元を緩め、

「……面白いガキだ」

渋川剛気も、穏やかな笑みを浮かべた。

「十歳でここまでとは……将来が本当に恐ろしい」

本部以蔵が、二人の横で静かに言った。

「これが、トオルだ。

お前たちが見たかった『恐ろしいもの』だ」

訓練場の風が、秋の匂いを運びながら、三人の達人と少年の周りを優しく通り過ぎていった。

トオルは、木刀を胸に抱き、にっこりと笑った。

「みんな、教えてください。

僕、もっと強くなりたいです」

杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。

『トオルちゃん……武の達人たちが、あなたの才能に驚いているわ。

あなたは、もう伝説の領域に足を踏み入れているのよ』

基地の外では、秋の陽が穏やかに差し込んでいた。

ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。

愚地独歩と渋川剛気は、十歳の少年の剣を見ながら、静かに未来を予感していた。

人類史上最大の魔法使いは、九歳から十歳へと成長する中で、

武の深淵をも、優しく吸収し続けていた。

霧の港町は、少年の光と、古き武芸の響きに包まれながら、輝き続けていた。

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