杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
北海道・岩内から遠く離れたイタリア、ナポリの小さなピザ職人の工房では、熱いオーブンの火が静かに燃え続けていた。
職人の名はマルコ・ロッシ。
若くしてナポリの伝統を守るピザ職人として知られていた彼は、数ヶ月前に日本から届いたダンジョン産の食材に心を奪われていた。
今日、彼はついに新しいピザを完成させた。
生地はダンジョン小麦で作ったもの。
通常の小麦より弾力と甘みがあり、焼くと表面がカリッと香ばしく、中はふんわりと柔らかい。
トッピングは、ネオトマトの濃厚なソースと、チーズラビットの肉を薄くスライスしたもの。
チーズラビットは、肉そのものがチーズのように濃厚で伸びるため、溶かさなくても自然にクリーミーな味わいを生み出す。
仕上げに、オリーブオイルと新鮮なバジルを散らし、オーブンで高温短時間で焼き上げた。
マルコは、焼き上がったピザをカウンターに置き、息を飲んだ。
「……これが、ダンジョン産の食材で作ったピザか」
一口かじると、口の中に広がるのは、想像を超えたハーモニーだった。
ダンジョン小麦の生地の甘みと歯応え、ネオトマトの深い旨味と酸味、チーズラビットの濃厚な肉の風味が三位一体となって舌を包み込む。
従来のマルゲリータとは明らかに違う、次元の違う味わいだった。
マルコは、目を閉じて静かに呟いた。
「ダンジョン小麦とネオトマト、そしてチーズラビット……
流石にダンジョン産のチーズはまだ発見されていないし、牛乳や乳牛も未発見のままだ。
それでも、これだけの味が出せた……
これは、新しいピザだ」
彼はすぐにノートにレシピを書き留め、店の看板メニューとして「ピザ・ダンジョン・スペシャル」と名付けた。
その日、店を訪れた常連客たちは、一口食べた瞬間、言葉を失った。
「これは……今までのピザとは違う……」
「神のピザだ……」
マルコは、客たちの反応を見ながら、静かに微笑んだ。
「日本から来た少年のおかげだ。
トオルという九歳の魔法使いが、ダンジョンから持ってきた食材で作ったピザだよ。
これが、僕の新しい挑戦だ」
遠く岩内では、トオルがそんな出来事を知らずに、基地の食堂でみんなと一緒に食事をしていた。
九歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「みんな、今日も美味しいね……」
胡蝶しのぶが、優雅に微笑みながら言った。
「ふふ……イタリアのピザ職人さんが、あなたの食材で新しいピザを作ったそうですわよ。
トオルくん、世界中にあなたの恵みが広がっていますのね」
トオルは、少し驚いた顔で、
「え? 僕の食材で……?
よかった……みんなが喜んでくれるなら、嬉しいよ」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたが持ち帰った小さな食材が、遠いイタリアで新しい味を生んでいるわ。
あなたの優しさが、世界の食卓を変えていくのよ』
基地の外では、秋の風が静かに吹いていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。
マルコ・ロッシの工房では、新たなピザ「ピザ・ダンジョン・スペシャル」が、
その日も熱いオーブンから次々と生まれ続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、知らぬ間に、世界の味覚に新しい光を灯し続けていた。
霧の港町は、少年の優しさと、遠いイタリアのピザの香りに包まれながら、輝き続けていた。