杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんと裏高野の思案

都の山奥、裏高野の本山は、秋の紅葉に染まる静かな境内に、緊張した空気が流れていた。

本堂の奥、薄暗い灯りの下で、座主と数名の阿闍梨たちが円座を組んで座っていた。

彼らは日本に数少ない退魔の専門集団――裏高野の最高幹部たちだった。

厳しい修行を繰り返し、呪術と武術を極めた者たちでさえ、ダンジョンの敵は手ごわく強大だった。

三十階を超えると、死者の数が急増し、どれだけ優秀な退魔師を送り込んでも、ほとんどが帰ってこなかった。

座主が、重い声で切り出した。

「トオルという少年が現れた時、我々は議論した。

九歳の子供が、単独で四百階まで探索しているという。

これは、神仏の加護か、それとも……」

一人の阿闍梨が、苦々しく頷いた。

「我が弟子たちをもってしても、三十階の壁は厚すぎる。

五輪坊を連れていっても、生きて帰れる者は少ない。

あの少年は、規格外だ」

その時、七十歳前後の老阿闍梨・慈空が、静かに口を開いた。

「座主……彼の元に、有望な退魔師を派遣したらどうだろうか。

トオルは攻撃や防御だけでなく、回復魔法やその他の術も使うという。

裏高野に存在しない技術を、学べる機会ではないか。

我が弟子の孔雀なら……あやつは裏高野でも指折りの実力者だが、一人では限界がある。

しかしトオルと共に行けば、学べることは多いはずだ。

特に、傷を一瞬にして癒す技術は、我々にはない。

学べば、死者の数も減るだろう。

それに、安倍晴明の十二天将や、ソロモンの魔神たちも集っている。

知識の面でも、学べることは山ほどある。

まずは孔雀でも派遣するか?

あやつなら、子供相手でもうまくやれると思う。

にしても……これだけの才能の塊が、在野に眠っていたとは。

幸運なのか、不運なのかわからんな。本人にとっては不運かもしれないが」

座主は、慈空の言葉をじっと聞き、長い沈黙の後、ゆっくりと頷いた。

「孔雀を……派遣する価値はあるだろう。

トオルという少年は、すでに神話の領域に足を踏み入れている。

我々が学べることは、きっと多い」

他の阿闍梨たちも、静かに同意の意を示した。

慈空は、深く頭を下げた。

「では、早速、手配を進めましょう。

孔雀に、トオル君の元へ向かうよう伝えます」

本堂の外では、秋の風が紅葉を優しく揺らしていた。

裏高野の退魔師たちは、トオルという未知の才能に、静かに期待と畏怖を寄せ始めていた。

岩内基地では、トオルがそんな動きを知らずに、みんなと一緒に食事をしていた。

九歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。

「みんな、元気だね……僕、もっとがんばるよ」

杖くんが耳元で優しく囁いた。

『トオルちゃん……裏高野の人たちも、あなたのことを注目し始めているわ。

あなたの優しさが、また新しい道を呼び寄せてるのね』

基地の外では、秋の風が静かに吹いていた。

ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。

裏高野の孔雀は、師の命を受け、静かに岩内への旅立ちを準備していた。

人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、退魔の英才たちをも、静かに惹きつけ続けていた。

霧の港町は、少年の光と、古き退魔の視線に包まれながら、輝き続けていた。

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