杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
京都の山奥、裏高野の外れにある古い茶屋の座敷。
落ち葉が静かに舞う庭を前に、孔雀と王仁丸は向かい合って座っていた。
孔雀はいつものように僧衣をだらしなく着崩し、長い髪を無造作に後ろでまとめ、口元に軽薄な笑みを浮かべていた。
しかしその瞳には、珍しく真剣な光が宿っている。
対する王仁丸は、長く黒い髪を肩まで流し、鋭く冷たい目をしていた。
サングラスをかけ、筋骨隆々とした体格は、どこか妖しく、近寄りがたい雰囲気をまとっている。
半人半鬼の血を引く彼は、孔雀の腐れ縁であり、良きライバルだった。
孔雀が、茶を一口飲んでから切り出した。
「王仁丸……お前、暇か?
北海道のダンジョンに行ってほしいんだ。
俺と一緒に、トオルというガキに協力してくれ」
王仁丸は、冷たい視線を孔雀に向け、ゆっくりと茶碗を置いた。
「突然何だ?
お前がそんな真面目な顔をするなんて珍しいな。
六道衆など比較にならない存在の巣窟だと聞いたが……本当か?」
孔雀は頷き、いつもの軽口を少し抑えた声で続けた。
「ああ。
トオルは……俺やお前以上の術の使い手らしい。
九歳の子供だぞ。
それでも一人で四百階まで潜ってる。
魔の誘惑から守るためにも、協力してほしい。
お前の呪禁道と俺の密法術……あの子にとって未知の系統のはずだ。
学べることも多いと思う」
王仁丸は、わずかに目を細め、髭の先を指で撫でた。
「九歳で四百階か……
ふん、馬鹿げている。
だが、お前がそこまで言うなら、興味はある。
俺は金で動く呪禁道士だ。
報酬はどうする?」
孔雀は、苦笑しながら肩をすくめた。
「報酬は……ない。
ただ、戦友として頼む。
あの子は優しすぎる。
それ故に、闇に落ちる危険もある。
お前と俺で、ちゃんと見張ってやろうぜ。
主義主張は違うが……腐れ縁の仲だろう?」
王仁丸は、短く笑った。
冷たい表情のまま、しかしその奥にわずかな人情が覗いた。
「腐れ縁ね……相変わらず甘いヤツだ。
だが、いいだろう。
あのガキが本当にそんな才能の塊なら、見てみたい。
俺の式鬼で、魔の誘惑から守ってやるよ。
ただし……失敗したら、お前のせいだぞ」
孔雀は、いつもの軽薄な笑みを浮かべて手を叩いた。
「ははっ! わかってるよ。
お前と組めば、絶対に面白くなる。
トオルってガキ……きっと、俺たちを驚かせてくれるぜ」
王仁丸は、立ち上がりながら小さく呟いた。
「九歳の子供が、神の領域に足を踏み入れている……
ふん、面白くなってきたな」
二人は、茶屋の外へ出た。
秋の風が、二人の背中を優しく押すように吹いていた。
孔雀は、軽く伸びをしながら言った。
「じゃあ、早速準備しようか。
トオル……お前、どんなガキだ?」
王仁丸は、無言で頷いた。
その冷たい瞳の奥に、わずかな好奇と、戦友への信頼が浮かんでいた。
岩内基地では、トオルがそんな動きを知らずに、みんなと一緒に食事をしていた。
九歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「みんな、元気だね……僕、もっとがんばるよ」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……裏高野の退魔師たちも、あなたの元へ来るみたいね。
また、新しい出会いが待っているわ』
基地の外では、秋の風が静かに吹いていた。
孔雀と王仁丸は、腐れ縁の戦友として、静かに北海道への旅立ちを準備していた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、新たな守護者たちを迎え入れようとしていた。
霧の港町は、少年の光と、古き退魔の影に包まれながら、輝き続けていた。