杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内自衛隊基地の訓練場に、秋の柔らかな陽が差し込んでいた。
その日、孔雀と王仁丸が到着した。
孔雀は黒い僧衣を少し着崩し、長い髪を後ろでまとめ、いつもの軽薄な笑みを浮かべていた。
王仁丸は黒い着流しに身を包み、冷たい鋭い目で周囲を観察しながら、静かに立っている。
トオルは、二人が基地の門をくぐるのを見ると、すぐに駆け寄った。
九歳の少年は、杖くんを抱きしめたまま、目を輝かせて言った。
「孔雀さん、王仁丸さん!
裏高野から来てくれたんですね!
よろしくお願いします!」
孔雀は、トオルの無邪気な笑顔に少し面食らいながらも、すぐにいつもの調子で頭を軽く撫でた。
「ははっ、トオルか。
お前、思ったより可愛いガキだな。
まあ、俺と王仁丸が来たからには、安心しろよ」
王仁丸は、冷たい視線をトオルに向けながらも、わずかに口元を緩めた。
「……ふん。
九歳で四百階か。
話に聞いていたより、ずいぶん純粋な顔をしているな」
トオルは、二人の周りを興味津々に回りながら、すぐに質問を始めた。
「孔雀さんの密法術ってどんなの?
王仁丸さんの呪禁道も見てみたい!
僕の魔法とどう違うのかな?」
孔雀は笑いながら手を振った。
「おいおい、早速かよ。
まあ、いいぜ。
見てろよ」
王仁丸も、短く頷いた。
「見せてやる。
ただし、俺の術は呪いだ。
お前の魔法とは違うぞ」
その日の午後、訓練場の片隅で、トオルは二人の術を珍しそうに観察し始めた。
孔雀の密法術が発動すると、トオルは目を輝かせてすぐに自分の魔法に応用しようと実験を始めた。
王仁丸の呪禁道を見ると、感心しながら「これ、僕の召喚と組み合わせたら……」と呟き、手を動かした。
孔雀と王仁丸は、トオルの吸収力に驚きを隠せなかった。
孔雀が、呆れたように笑った。
「おいおい、ちょっと待てよ。
俺の術を一目見ただけで、あんなに応用しようとするなんて……
お前、本当に九歳か?」
王仁丸も、珍しく感心した声で言った。
「……なるほど。
お前の魔法は、俺たちの術とは根本的に違うな。
しかし、融合させる発想は面白い」
夕方、トオルは杖くん、ガンダルフ、孔雀、王仁丸、メフィストを集めて、魔法や密法術の話を始めた。
メフィストが、自分の世界の魔術について語り始めると、トオルは大興奮した。
「メフィストさん!
その魔術、すごく面白い!
特に十六夜念法……見てみたいな!」
メフィストは、赤い瞳を細めて優しく微笑んだ。
「ふふ……君が正しい道を歩んでいたら、十六夜京也の方から来るだろう。
彼と君がどんな話をするか……楽しみだよ」
トオルは目を輝かせて頷いた。
「うん!
絶対に会いたい!
メフィストさんの世界の魔術、もっと教えてください!」
ガンダルフは、白い髭を撫でながら静かに言った。
「中つ国の魔法とは、また異なる系統だな。
しかし、トオルよ……闇に近づきすぎてはならぬぞ」
孔雀は、軽く笑いながらも真剣な目でトオルを見た。
「俺の密法術も、王仁丸の呪禁道も……お前ならもっと進化させられるかもしれないな。
まあ、俺たちも、お前の魔法から学ばせてもらうぜ」
王仁丸は、冷たい視線をトオルに向けながら、静かに頷いた。
「……お前の才能は本物だ。
俺の術を、好きに使ってみろ。
ただし、闇に落ちるなよ」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……退魔師たちも、あなたの才能に驚いているわ。
これで、また新しい仲間が増えたのね』
トオルは、みんなの顔を見て、にっこりと笑った。
「みんな、ありがとう!
僕、もっとがんばるよ。
みんなと一緒に、強くなりたい!」
訓練場の風が、秋の匂いを運びながら、トオルと新たな仲間たちを優しく包んでいた。
九歳の少年は、退魔の才と魔界の知識を胸に、
静かに、しかし確かに、自分の道を歩み続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、世界の叡智を、優しく吸収し続けていた。
霧の港町は、少年の光と、古き退魔の影に包まれながら、輝き続けていた。