杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
アスラン王国のスタンピードの惨状は、即座にアメリカと国連に報告された。
ワシントンD.C.の緊急会議室では、米軍幹部と国連代表が顔を突き合わせていた。
「アスラン王国は既に壊滅状態だ。
ダンジョンから溢れ出した怪物たちが、軍隊を飲み込んでいる。
即座に多国籍軍を派遣すべきだ」
アメリカの国防長官が、厳しい顔で宣言した。
国連事務総長も、深く頷いた。
「人道的危機です。
迅速な軍事介入が必要です」
アスラン王国に近い米軍駐屯地は、たちまち慌ただしくなった。
戦闘機が滑走路に並び、輸送機が荷物を積み込み、特殊部隊が待機した。
兵士たちは緊張した面持ちで、いつでも出撃できる状態に整えられていた。
しかし――軍が実際に派遣されることはなかった。
報告が届いた数時間後、アスラン王国から新たな連絡が入った。
「スタンピードは……すでに解決した」
会議室は一瞬、静まり返った。
「解決? 誰が?」
「日本の少年……トオル・サトウだ。
彼が召喚した軍勢と魔法で、怪物たちを一掃したという」
米軍幹部は、信じられないという顔で報告書を読み返した。
「……九歳の子供が、軍隊ですら壊滅したスタンピードを単独で?」
国連代表も、呆然と呟いた。
「信じがたいが……事実のようだ。
現地の生存者たちが、少年の召喚獣と魔法の力で怪物が壊滅したと証言している」
アメリカは、すぐに方針を変更した。
「では、軍の目的を変更する。
人命救助と復興支援を優先せよ。
ついでに……トオル・サトウの戦闘データを、極秘裏に収集するように」
駐屯地の司令官は、暗号化された命令を受け取り、部下に厳命した。
「トオル・サトウの戦闘記録を、可能な限り詳細に記録せよ。
映像、音声、目撃証言……すべてだ。
ただし、決して表には出さない。
これは最高機密だ」
トオルは、そんな動きなど知らずに、アスラン王国の瓦礫の街で、負傷者の治療に追われていた。
九歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく微笑んだ。
「みんな、大丈夫……
僕が治してあげるからね」
メフィストが、負傷者の傍らで魔界の医術を駆使し、
召喚された仲間たちが、周囲の警戒を続けていた。
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……世界が、またあなたに助けを求めているわ。
でも、あなたはいつも通り、優しく戦ってる。
それが、あなたの強さよ』
アメリカと国連の軍は、人命救助と復興支援という名目でアスラン王国に入った。
しかし、彼らの本当の目的の一つは、トオルという存在の戦闘データを、極秘裏に収集することだった。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、遠い異国の地でも、
静かに、しかし確かに、光を灯し続けていた。
霧の港町は、少年の優しさと、世界の視線に包まれながら、輝き続けていた。