杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内自衛隊基地の地下から続くダンジョンは、トオルにとってすでに日常の延長となっていた。
九歳の少年は、杖くんを握りしめ、黙々と階段を下りていく。
四百階から五百階、六百階、七百階……。
魔力の濃度が濃くなり、瘴気が空気を重くする階層でも、トオルの足取りは変わらない。
召喚した仲間たちが周囲を守り、魔法の光が暗闇を切り裂く。
孔雀と王仁丸は、六十階を越えたあたりで撤退を余儀なくされた。
孔雀は、汗を拭いながら苦笑した。
「ははっ……これ以上は無理だな。
魔力と瘴気の濃さが、俺の密法術すら乱す。
トオル、お前は本当に化け物だぜ」
王仁丸は、冷たい視線を奥の闇に向け、短く言った。
「……六十階で限界か。
お前の背中は、もう俺たちには見えん」
トオルは振り返り、優しく微笑んだ。
「孔雀さん、王仁丸さん……ありがとう。
ここからは僕一人で大丈夫だよ。
みんな、無理しないで待っててね」
二人は、少年の小さな背中を見送りながら、静かに地上へ引き返した。
そして、トオルは八百五十階に到達した。
そこは、突然、異様な空間に変わった。
無限に広がる書架の森。
棚には、過去・現在・未来の知識が、ありとあらゆる言語と形式で収納されていた。
ゲームの魔法書、失われた古代の秘術、未来の技術……。
無限の図書室と呼ばれる、伝説の場所だった。
トオルは、目を輝かせて駆け寄った。
「すごい……
ここに、全部の知識があるんだ……!」
杖くんも、銀髪を優しく揺らし、興奮を抑えきれない様子で言った。
『トオルちゃん……これは、本当にすごいわ。
ドラクエ、ウィザードリィ、ウルティマ、ゼルダ……ありとあらゆるゲームの魔法やアイテムの知識まで……
あなたが吸収すれば、世界が変わるかもしれない』
二人は、時間を忘れて知識を吸収し続けた。
トオルは、ページをめくるように魔法を学び、杖くんは古い封印の記憶を呼び覚ますように助言を与えた。
一週間が経過した頃、二人はようやく地上へ戻った。
自衛隊の面々は、基地の入口で待っていた。
煉獄杏寿郎が、大きな声で怒鳴った。
「トオル! 一週間も連絡なしとは何事だ!
心配したぞ!」
胡蝶しのぶが、優雅にため息をつきながら、
「ふふ……トオルくん、さすがに今回は心配しましたわ。
無事でよかったですけど……」
しかし、トオルの魔力と実力が天井知らずに上がっているのを確認すると、皆の表情はすぐに変わった。
新城直衛大佐は、静かに頷いた。
「八百五十階……そして、無限の図書室か。
トオル君の実力は、もはや我々の想像を超えている。
怒るべきだが……褒めるしかないな」
トオルは、みんなの顔を見て、少し申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさい……
でも、すごい場所だったんだ。
みんなの役に立つ知識がいっぱいあったから……
これからは、ちゃんと連絡するね」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたは、深淵の秘密をまた一つ手に入れたわ。
でも、みんなが心配するのも、無理はないのよ。
これからは、ちゃんと伝えてあげてね』
基地の外では、秋の風が静かに吹いていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。
トオルは、無限の図書室で得た知識を胸に、静かに微笑んだ。
「これで、みんなをもっと守れるよ……」
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、深淵の叡智を、優しく地上へ持ち帰っていた。
霧の港町は、少年の光と、無限の知識の響きに包まれながら、輝き続けていた。