杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内自衛隊基地の地下深く、トオルが発見した「無限の図書室」は、静かな光の海に包まれていた。
そこは、果てしなく続く書架の森だった。
天井は見えず、棚は無限に連なり、過去・現在・未来のあらゆる知識が、ありとあらゆる言語と形式で収納されていた。
ゲームの魔法書、失われた古代の秘術、未来の技術……。
空気は古紙と魔力の香りに満ち、足音一つが永遠に響くような静寂が支配していた。
中央の大きな机の前に、司書が立っていた。
紫色の長い髪を優雅にまとめ、眼鏡の奥に知的な紫の瞳を光らせる少女――パチュリー・ノーレッジ。
彼女は、黒と白のクラシックなドレスを纏い、静かに本を手に取っていた。
その姿は、どこか病弱そうでありながら、圧倒的な知識の深さを湛えていた。
彼女の周りには、無限にいる図書委員たちが静かに動き回っていた。
小さな悪魔のような翼を持ち、赤い髪をツインテールにした少女たち――小悪魔たち。
皆が同じ顔立ちで、同じ制服を着て、書架の間を飛び回り、本を整理し、埃を払い、トオルのために知識を分類していた。
トオルは、九歳の小さな体でその光景を見つめ、目を輝かせていた。
「すごい……
ここにある本、全部読めたら……
世界中の人が、もっと幸せになれるかもしれない……」
パチュリーは、静かに本を閉じ、トオルに向き直った。
その声は、落ち着いていて、しかし絶対的な響きを持っていた。
「トオル様……この図書室は、あなたが自力で到達した場所です。
故に、使用権限はあなたのみ。
一般に開放することは、許されません」
トオルは、少し困った顔をした。
「でも……みんなが困ってる時に、役に立つ知識がいっぱいあるんだよ。
僕だけが独り占めするのは、なんか……」
小悪魔の一人が、トオルのそばに飛んできて、元気よく言った。
「トオル様!
ここは、あなただけの場所です!
私たち図書委員は、トオル様に絶対の忠誠を誓っています!
他の人が入るなんて、許せません!」
パチュリーは、眼鏡を軽く押し上げながら、静かに続けた。
「時折、霧雨魔理沙に似た少女が、盗みに入ろうとしていました。
しかし、あなたが所有権を得た後は、入る事ができなくなりました。
私たちも、それを許すほど優しくなくなってしまいました」
トオルは、扉の外から聞こえる小さな嗚咽に気づき、そっと外へ出た。
そこに、霧雨魔理沙に似た少女が、地面に座り込んで大泣きしていた。
黒い帽子に白いブラウス、赤いリボン。
彼女は、トオルを見上げて、涙目で訴えた。
「うう……せっかくの無限の図書室なのに……
入れないなんて……ひどいよぉ……」
トオルは、慌てて少女に近づき、優しく言った。
「ごめんね……
でも、司書さんたちが許してくれないんだ。
入れてあげればいいのに……」
パチュリーが、静かに扉の外から声をかけた。
「トオル様……盗人を入れるわけにはいきません。
ここは、あなたの知識の聖域です。
勝手に持ち出されるような場所ではありません」
魔理沙は、地面に座ったまま、ますます大きな声で泣いた。
「うわぁぁん! ひどい! パチュリーの意地悪!」
トオルは、困った顔で杖くんを見上げた。
「杖くん……どうしよう……」
杖くんが、優しくトオルの頭を撫でながら、微笑んだ。
『トオルちゃん……司書さんたちの気持ちもわかるわ。
ここは、あなたが自力で手に入れた場所。
大切に守りたいと思うのは、自然なことよ。
でも、あなたの優しさが、きっと新しい道を開いてくれるわ』
トオルは、魔理沙の頭を優しく撫でながら、静かに言った。
「魔理沙さん……ごめんね。
僕、司書さんたちに、もう一度お願いしてみるよ。
みんなが、知識を分け合えたらいいのに……」
パチュリーは、眼鏡の奥の瞳をわずかに細め、静かに微笑んだ。
「トオル様……あなたの優しさは、尊いものです。
ですが、この図書室は、あなたのものです。
どうか、それを忘れないでください」
小悪魔たちが、トオルの周りを飛び回りながら、元気よく言った。
「トオル様! 私たち、ずっとここで待っています!
あなたのためなら、何でもします!」
無限の図書室の光は、静かに、しかし確かに、トオルの小さな体を照らし続けていた。
トオルは、魔理沙の涙を拭いながら、胸に誓った。
「僕、みんなが幸せになれるように……
もっと、がんばるよ」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたは、知識の海を独り占めするような子じゃないわ。
いつか、この図書室も、みんなの笑顔で溢れる日が来るはずよ』
基地の外では、秋の風が静かに吹いていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。
トオルは、無限の図書室の扉を閉めながら、静かに微笑んだ。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、知識の海と、優しい想いを、静かに抱き続けていた。
霧の港町は、少年の光と、無限の書架の響きに包まれながら、輝き続けていた。