杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
世界各地に、少数ながらダンジョンは存在していた。
日本のように大規模なものではないが、どの国も軍隊や志願者を送り込み、必死に攻略を試みていた。
しかし、進展は遅々として進まなかった。
装備の問題、モンスターの強大さ、そして何より――魔法を使える存在の少なさが、最大の壁だった。
退魔組織を除けば、大抵の国で「魔法を使える人間が一人でもいれば奇跡」とされるほど稀少だった。
古来から伝わる呪術や秘術の継承者は、確かに少数存在したが、魔女狩りや宗教弾圧の歴史の中で、表舞台に立つことを恐れ、隠れて生きていた。
日本では、十歳のトオルが一人で四百階を超える深層を攻略していたが、それは例外中の例外だった。
通常の攻略は、数人から数十人のチームで行われるのが普通だった。
そんな中、ヴァチカンが世界に向けて重大な発表を行った。
ヨハネ・パウロ二世法王は、バチカン広場に集まった信者と報道陣の前で、静かだが力強い声で語った。
「魔法は、教義上、異端である。
しかし、今は人類の危機である。
ダンジョンという脅威が、世界を滅ぼさんとしている。
犯罪に使用しない限り、魔法の使用を黙認する。
教義は大事であるが、今は人類が絶滅するかどうかの瀬戸際だ。
神も、一時的にその使用を黙認してくれるだろう。
もし許されない時は、私自身が地獄でその罪を償います」
この発表は、世界中に衝撃を与えた。
キリスト教以外の宗教も、次々と追随した。
イスラム教、ヒンドゥー教、仏教……主要な神話の神々も、異例の一致を見せた。
「人類存亡の危機なのだ。
この程度は、罪にはならない」
地球の主要神話の神々は、遠い天界や冥界でそう意見を一致させていた。
ハデス、アヌビス、閻魔王、ヘル……死と審判を司る神々さえも、沈黙を守っていた。
トオルは、そんな世界の動きを知らずに、基地の食堂でみんなと一緒に食事をしていた。
九歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「みんな、元気だね……
僕、今日もがんばってきたよ」
煉獄杏寿郎が、大きな声で笑いながら言った。
「うむ! トオル、お前は世界の希望だぞ!
ヴァチカンまでが魔法を認めたというからな!」
胡蝶しのぶが、優雅に微笑み、
「ふふ……異端だった魔法が、今は人類の救いになっていますわ。
トオルくん、あなたの存在が、世界を変えていますのよ」
胡蝶カナエが、穏やかに頷き、
「あらあら、神様たちも、黙認してくださっているみたい。
トオルくんは、本当に特別ね」
炭治郎が静かに、
「トオルくん……お前のおかげで、魔法が『罪』ではなくなった。
これで、世界中の人が、少しでも希望を持てるようになるよ」
トオルは、少し照れくさそうに笑った。
「僕、ただ……みんなが怖い思いをしないようにって……」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……神様たちも、あなたの優しさを認めているわ。
これで、世界は少しずつ、希望の方向へ動き始めている』
基地の外では、秋の風が静かに吹いていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。
ヴァチカンの発表と、各宗教の追随により、魔法は「人類の危機を救うための手段」として、
世界中で静かに認められ始めていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、世界の祈りと、神々の黙認を、静かに受け止め続けていた。
霧の港町は、少年の光と、世界の新たな希望に包まれながら、輝き続けていた。