杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

181 / 241
杖くんと遠い故郷への手

岩内自衛隊基地の巫女寮の一室で、石戸霞は小さな机に向かっていた。

窓の外では、秋の終わりを告げる風が木々の葉を優しく揺らしている。

彼女は、丁寧に便箋を広げ、筆を走らせ始めた。

家族と、学校の友人たちへの近況の手紙だった。

「家族の皆さまへ。

元気でやっていますか。

私は今、トオル様のいる自衛隊基地で、須佐之男命様の託宣に従い、日々を過ごしています。

ここに来てから、驚くことが本当に多かったです……」

霞は、筆を止め、ふと微笑んだ。

食堂での手伝いの記憶が、鮮やかに蘇る。

「食堂のお手伝いをすると、毎日のようにダンジョンの食材が並びます。

新種の食材も数多くあって、最初は目を見張るばかりでした。

中には、まだ市場に出せないものも多く……ダンジョンサーモンの刺身を食べた時は、思わず声も出ませんでした。

脂がのっていて、口の中でとろけるような甘み。

あばれうしどりのステーキも、肉の旨味が濃厚で、まるで夢のような味でした。

毎日新しい食材が届くので、調理する方も大変そうです。でも、皆さんが笑顔で食べてくださる姿を見ると、私も嬉しくなります」

彼女は、次の行を書きながら、トオルのことを思い浮かべた。

「トオル様は、性格も本当に温厚で優しく、常にこちらを気遣ってくださいます。

まだ十歳なのに、まるで年上のような落ち着きがあり、たまにどちらが年上なのかわからなくなるほどです。

機密に関わるので、召喚獣の方々のことは詳しく書けませんが、皆さんとても優しい方ばかりです。

特に、ニンジャスレイヤー様は……外人の間違った忍者姿なのは何故だろう?

今度、トオル様に聞いてみようと思います。

麻雀ができないのは少し寂しいですが、トオル様はそんな暇はないですし、自衛隊の方々とやるのも……ね?」

霞は、手紙を読み返しながら、静かに微笑んだ。

トオルの笑顔が、頭に浮かぶ。

基地に来てから、彼女の日常は、驚きと優しさに満ちていた。

トオルは、そんな霞の想いを知らずに、基地の食堂でみんなと一緒に食事をしていた。

九歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。

「みんな、今日も美味しいね……

霞さんたちも、手伝ってくれてありがとう」

胡蝶しのぶが、優雅に微笑みながら、

「ふふ……巫女さんたちも、トオルくんのことをとても大切に思ってくれていますわ。

手紙を書いているみたいですよ」

胡蝶カナエが、穏やかに頷き、

「あらあら、トオルくん、あなたの優しさが、みんなの心を温かくしているのね」

霞は、手紙を封筒にしまい、静かに目を閉じた。

「トオル様……どうか、これからもお元気で。

私たちも、精一杯お手伝いします」

基地の外では、秋の風が静かに吹いていた。

ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。

トオルは、知らぬ間に、遠い故郷で想う人々の心を、優しく繋いでいた。

人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、世界の絆を、静かに紡ぎ続けていた。

霧の港町は、少年の光と、巫女の手紙の温もりに包まれながら、輝き続けていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。