杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内自衛隊基地の巫女寮の一室で、石戸霞は小さな机に向かっていた。
窓の外では、秋の終わりを告げる風が木々の葉を優しく揺らしている。
彼女は、丁寧に便箋を広げ、筆を走らせ始めた。
家族と、学校の友人たちへの近況の手紙だった。
「家族の皆さまへ。
元気でやっていますか。
私は今、トオル様のいる自衛隊基地で、須佐之男命様の託宣に従い、日々を過ごしています。
ここに来てから、驚くことが本当に多かったです……」
霞は、筆を止め、ふと微笑んだ。
食堂での手伝いの記憶が、鮮やかに蘇る。
「食堂のお手伝いをすると、毎日のようにダンジョンの食材が並びます。
新種の食材も数多くあって、最初は目を見張るばかりでした。
中には、まだ市場に出せないものも多く……ダンジョンサーモンの刺身を食べた時は、思わず声も出ませんでした。
脂がのっていて、口の中でとろけるような甘み。
あばれうしどりのステーキも、肉の旨味が濃厚で、まるで夢のような味でした。
毎日新しい食材が届くので、調理する方も大変そうです。でも、皆さんが笑顔で食べてくださる姿を見ると、私も嬉しくなります」
彼女は、次の行を書きながら、トオルのことを思い浮かべた。
「トオル様は、性格も本当に温厚で優しく、常にこちらを気遣ってくださいます。
まだ十歳なのに、まるで年上のような落ち着きがあり、たまにどちらが年上なのかわからなくなるほどです。
機密に関わるので、召喚獣の方々のことは詳しく書けませんが、皆さんとても優しい方ばかりです。
特に、ニンジャスレイヤー様は……外人の間違った忍者姿なのは何故だろう?
今度、トオル様に聞いてみようと思います。
麻雀ができないのは少し寂しいですが、トオル様はそんな暇はないですし、自衛隊の方々とやるのも……ね?」
霞は、手紙を読み返しながら、静かに微笑んだ。
トオルの笑顔が、頭に浮かぶ。
基地に来てから、彼女の日常は、驚きと優しさに満ちていた。
トオルは、そんな霞の想いを知らずに、基地の食堂でみんなと一緒に食事をしていた。
九歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「みんな、今日も美味しいね……
霞さんたちも、手伝ってくれてありがとう」
胡蝶しのぶが、優雅に微笑みながら、
「ふふ……巫女さんたちも、トオルくんのことをとても大切に思ってくれていますわ。
手紙を書いているみたいですよ」
胡蝶カナエが、穏やかに頷き、
「あらあら、トオルくん、あなたの優しさが、みんなの心を温かくしているのね」
霞は、手紙を封筒にしまい、静かに目を閉じた。
「トオル様……どうか、これからもお元気で。
私たちも、精一杯お手伝いします」
基地の外では、秋の風が静かに吹いていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。
トオルは、知らぬ間に、遠い故郷で想う人々の心を、優しく繋いでいた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、世界の絆を、静かに紡ぎ続けていた。
霧の港町は、少年の光と、巫女の手紙の温もりに包まれながら、輝き続けていた。