杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
ニューヨークの国連本部、総会議場は、重い空気に満ちていた。
各国代表が円卓を囲み、トオルが発見した「無限の図書室」の所有権を巡る議論が続いていた。
日本政府は、トオルが自力で850階まで到達し、所有権を得たことを資料として提出。
世界中の軍事企業や製薬会社、研究機関がその知識を求めていたが、トオルは他者を招かない方針を貫いていた。
日本代表が、落ち着いた声で説明した。
「トオル君以外の人間の到達階層は、最大で40階です。
孔雀師範ですら、60階が限界。
それ以上は瘴気と魔力の濃さで、肉体と精神が耐えられません。
トオル君が他者を招かない理由は、図書館の知識が高度すぎるためです。
自力で850階まで来られない者が入れば、脳が破壊される恐れがあります。
これは、トオル君が渡したくないからではなく、保護のための措置です」
国連事務総長が頷き、
「日本側の資料は信頼できる。
トオル君の図書館所有権を認めるべきだ」
その時、韓国代表が立ち上がり、声を荒げた。
「認められない!
こちらが先に見つけたものだ!
賠償と謝罪を請求する!
トオルという子供が独占するのは不当だ!
あのような幼児が、世界の宝を独り占めするなど、許されない!
あのガキは、ただの運が良かっただけだ!
日本はトオルを隠れ蓑にして、世界の知識を独占しようとしている!
卑劣だ!」
会場がざわついた。
中国代表が、冷ややかに切り返した。
「韓国代表……どうやって発見したのだ?
朝鮮半島にはダンジョンがないのに。
そちらから探索者が世界のダンジョンに入った記録もない。
それなのに、自分の功績だと?
厚顔無恥という言葉を、辞書で調べた方が良い。
子供でも知っている言葉だぞ」
韓国代表は顔を赤くし、なおも叫んだ。
「トオルは、ただの子供だ!
あのような幼児が、知識を独占するなど許されない!
日本はトオルを道具にしているだけだ!」
トオルは、基地のテレビでその様子を偶然見てしまい、悲しそうな顔をした。
「僕……何か間違えたかな?
みんなが困ってる時に、役に立ちたいと思っただけなのに……」
杖くんが、優しくトオルの頭を抱き寄せた。
『トオルちゃん……あなたは何も間違っていないわ。
ただ、欲に目がくらんだ人たちが、理不尽なことを言っているだけ。
あなたの優しさを、ちゃんとわかってくれる人たちもたくさんいる』
国連の場では、日本代表が静かに立ち上がった。
「トオル君は、知識を独占しているわけではない。
精霊魔法の書は無料で世界中に配布した。
図書室は、彼が自力で到達した場所であり、危険な知識が多すぎるため、他者を招かないだけだ。
韓国代表の主張は、根拠がない」
韓国代表は、激しく抗議したが、会場の大半は冷ややかな視線を向けた。
結局、韓国は国連から脱退する事態となった。
どこの国も、引き止めようとはしなかった。
トオルは、ニュースを見て、静かに目を伏せた。
「韓国のおじさんたち……怒ってるみたい。
僕、何か悪いことしたのかな……」
煉獄杏寿郎が、大きな声で励ました。
「うむ! トオル、お前は何も悪くない!
欲に目がくらんだ者が、理不尽に騒いでいるだけだ!
お前は、ただみんなの役に立ちたいだけだろう!」
胡蝶しのぶが、優雅に微笑みながら、
「ふふ……トオルくん、あなたの優しさを、ちゃんとわかってくれる人たちは、世界中にたくさんいますわ。
韓国が脱退したのも、彼らの選択です。
あなたは気にしないで」
トオルは、みんなの言葉に、ようやく小さく頷いた。
「うん……僕、みんなの役に立ちたいだけだよ。
これからも、がんばるね」
杖くんが、耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたは、正しい道を歩んでいるわ。
欲に負けた人たちの声に、惑わされないで』
国連の会議は、トオルの図書室所有権を正式に認め、
世界は、再びトオルという少年の存在に、静かな驚嘆を向けていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、世界の理不尽と、優しい想いを、静かに受け止め続けていた。
霧の港町は、少年の光と、国連の決議に包まれながら、輝き続けていた。