杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
ヘルシング邸の地下会議室では、蠟燭の炎が依然として静かに揺れ続けていた。
インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングは、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせ、アーカードに向き直った。
葉巻の煙をゆっくりと吐き出しながら、彼女は静かに尋ねた。
「アーカード。
エクスカリバー……そして聖杯、ロンギヌス、聖骸布といった聖遺物が、現代に蘇るのか?
あれらは歴史の闇に消えていったはずだ。
あの少年が嘘を言うことはない。間違いなく存在するのだろう。
しかし、何故今になって蘇る?
何かしらの理由でもあるのか?」
アーカードは、赤い瞳を細め、愉しげに口元を歪めた。
長い指でコートの襟を軽く撫でながら、ゆっくりと答える。
「ふふ……インテグラ。
私の主よ。
トオルという少年の元に集うのかもしれない。
そう運命づけされた存在なのだろう。
彼は混乱させたくないと拒否するかもしれないがね。
あの純粋な子供は、世界を乱すことを恐れながらも、
真実を優しく語ってしまう……それが彼の性質だ」
インテグラルは、葉巻を灰皿に押しつけ、ため息をついた。
「運命か……
九歳の子供が、そんな大きなものを背負うなど、笑えない話だ」
ウォルター・C・ドルネーズが、穏やかな笑みを浮かべながら、
「インテグラル様。
トオル少年は、確かに人類最強の魔法使いと呼ばれていますが、
心はまだ守られるべき子供のままです。
聖遺物が彼の周りに集うというなら、我々も慎重に対応しなければなりませんね」
セラス・ヴィクトリアは、目を丸くして、
「マスター……! 聖遺物がトオル様のところに……?
それって、すごいことじゃないですか……!
私なんかより、ずっと偉大な存在が……」
アーカードは、セラスを一瞥し、再びインテグラルに向き直った。
「セラスよ、落ち着け。
あの少年は、人の身でありながら人を超え、私をも超えている。
聖遺物が彼を求めて集う……それは、まるで新しい王の誕生を予感させるようだ。
インテグラ、私はただ楽しみにしているだけさ。
彼が私を見て、どんな顔をするのか……
そして、聖剣が彼の手に渡った時、世界がどう変わるのか」
インテグラルは、眼鏡を指で押し上げ、冷ややかに言った。
「アーカード……お前は相変わらず楽しそうで結構だ。
だが、女王陛下のご意向を忘れるな。
トオル少年がイギリスに来るなら、護衛として動く。
聖遺物が蘇るというなら、それもまた人類の危機に関わる問題だ。
ローマがアンデルセンを派遣するように、我々も無関係ではいられない」
アーカードは、赤い瞳を輝かせ、笑みを深めた。
「ふふ……了解した、マスター。
運命があの少年に集うなら、私はその一部になってもいい。
吸血鬼として、人類の盾となる子供を守る……
なかなか面白い役割ではないか」
地下会議室に、再び静かな緊張が満ちた。
ヘルシング機関の面々は、遠い日本の少年と、蘇ろうとする聖遺物の影を、それぞれの想いで見つめていた。
一方、遠く北海道の自衛隊基地では、トオルはいつものようにみんなと食事をしていた。
九歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「みんな、元気だね……
僕、今日もがんばってきたよ」
胡蝶しのぶが、優雅に微笑みながら、
「ふふ……トオルくん、イギリスのヘルシング機関でも、あなたの話がされているそうですわ。
聖遺物があなたに集うかもしれない……なんて」
トオルは、少し驚いた顔で、
「聖遺物……?
僕、ただ本当のことを話しただけだよ……
みんなが困らないように、笑顔でいられるように……それだけだよ」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……運命が、あなたの周りに集まり始めているわ。
でも、あなたはいつも通りでいいのよ。
みんなの笑顔を守る、それがあなたの道』
基地の外では、秋の風が静かに吹いていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。
ヘルシング邸では、アーカードが静かに笑みを浮かべ、
インテグラルが次の指示を考え、
ウォルターさんとセラスが、静かに次の動きを待っていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、蘇る聖遺物と遠い想いを知らずに、
ただ、みんなの笑顔を守るために歩み続けていた。
霧の港町は、少年の光と、夜の邸宅の祈りに包まれながら、輝き続けていた。