杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
バチカン市国、法王庁特務局第13課の地下訓練施設。
冷たい石の壁に囲まれた部屋では、蠟燭と電灯が混じり合う不思議な光が揺れていた。
アレクサンド・アンデルセン神父は、金髪のショートヘアを無造作に整え、黒い神父服に銀の十字架を輝かせながら、武装神父隊の前に立っていた。
その鋭い青い瞳には、いつもの狂気じみた闘志が宿っている。
「我々は教皇猊下の直々の命令を受けた!
日本へ向かい、トオルという少年を援護する。
ダンジョンという未知の場所で、一人で戦い続ける少年を、神の盾として支えるのだ!
これは異端審問ではない。援護だ。援護であるぞ!」
アンデルセンは、拳を固く握りしめ、声を張り上げた。
傍らに立つハインケル・ウーフーは、眼鏡の奥で冷たい視線を向けながら、腕を組んでいた。
白い神父服に身を包み、厳格な表情でアンデルセンを見つめる。
「アンデルセン神父……ダンジョンか。
聞いた話では、銃火器すら通用しない怪物が跋扈する場所だという。
我々がどれだけ役に立てるか……」
少し離れた場所で、由美江が静かに頷きながら、
「本当に……未知の脅威ですわね。
九歳の子供が一人で四百階以上を探索しているなんて……
神の子イエス・キリストが教皇猊下に託宣を下されたというのも、何かしらの試練なのでしょう」
アンデルセンは、豪快に笑い飛ばした。
「はははっ! 試練であろうとなかろうと、我々は行く!
少年の背中を守る。それが我々の務めだ!
神の名の下に、悪魔どもをぶっ飛ばしてやる!」
ハインケルは、眼鏡を押し上げながら、冷静に切り込んだ。
「それよりも……我々にもミスリル装備が手に入るのか?
聞いたところでは、あの少年が持ち帰る素材で作られた刀や盾は、戦車砲すら防ぐという。
我々が日本に行けば、少なくとも一部は支給されるのではないか?」
由美江が、わずかに目を細めて、
「ミスリル……確かに魅力ですわね。
現在の我々の装備では、ダンジョンの深層は厳しいでしょう。
もしトオル少年から直接、または自衛隊経由で手に入れられれば……
武装神父隊の戦力は大幅に向上します」
アンデルセンは、十字架を強く握りしめ、狂気じみた笑みを浮かべた。
「ミスリルなどどうでもいい!
しかし……少年が作るという魔法の武器は興味深い。
神の力と、少年の力が合わされば、どんな怪物も屠れるだろう!
まずは日本へ行き、トオル少年に会う。
それからだ!」
ハインケルは、ため息をつきながらも、
「神父……あなたはいつもそうだ。
だが、ミスリルは現実的な戦力強化になる。
教皇猊下の命令は援護だが、我々が生き残らねば意味がない」
由美江が、静かに微笑みながら、
「ええ……まずは少年の力を見極めましょう。
神の子が託宣を下された以上、何かしらの意味があるはずですわ」
アンデルセンは、両手を広げ、声を大きくした。
「よし! 準備を急げ!
日本へ向かうぞ!
トオル少年の盾となり、ダンジョンの闇を切り裂く!
神の栄光のために!」
武装神父隊の面々が、一斉に「アーメン」と唱和した。
訓練施設に、十字架の輝きと、決意の声が響き渡った。
一方、遠く北海道の自衛隊基地では、トオルはいつものようにみんなと食事をしていた。
九歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「みんな、元気だね……
僕、今日もがんばってきたよ」
胡蝶しのぶが、優雅に微笑みながら、
「ふふ……トオルくん、ローマから神父様方が日本に来るそうですわ。
あなたを援護するため……だとか」
トオルは、少し驚いた顔で、
「神父様……?
僕、ただみんなが笑顔でいられるようにがんばってるだけだよ……」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……神の使者たちが、あなたの元に来るわ。
きっと、優しい出会いになるのよ』
基地の外では、秋の風が静かに吹いていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。
バチカンでは、アンデルセンが狂喜に満ちた笑みを浮かべ、
ハインケルと由美江が、ミスリルへの期待と未知の脅威を静かに語り合っていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、遠いローマの使者たちの想いを知らずに、
ただ、みんなの笑顔を守るために歩み続けていた。
霧の港町は、少年の光と、神の託宣に包まれながら、輝き続けていた。