杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
自衛隊基地の窓から見える冬の空は、灰色に覆われ、雪がちらつき始めていた。
トオルは、基地内の小さな自室で、杖くんを抱きしめたまま、静かに窓の外を見つめていた。
九歳の少年の横顔は、いつも通り穏やかだったが、どこか遠くを見るような寂しさが滲んでいた。
「本来なら……学校で、みんなと一緒に勉強したり、遊んだりする年齢なんだよね……」
トオルは、ぽつりと呟いた。
その声は、幼いながらも、どこか大人びた響きを帯びていた。
杖くんは、人の姿でトオルの隣に座り、優しくその銀髪を撫でた。
大人の女性らしい柔らかな笑みを浮かべながら、
「トオルちゃん……そうね。
あなたは本来なら、教室で友達と笑い合ったり、運動場で走り回ったりするはずだったわ。
でも、今の人類には……その余裕がないのよ」
トオルは、ゆっくりと頷いた。
「うん……僕の才能と知識が、ダンジョン攻略にどうしても必要だって。
魔法を攻略者向けに編纂したり、企業や国の依頼で珍しい鉱石や薬草を採ってきたり……
それに、千階以降に潜るための修行も……
学校で得られる知識は、もう無限の図書館で全部履修しちゃったけど……
やっぱり、友達を作るってことが……できないんだよね」
周囲にいるのは、大人ばかりだった。
胡蝶しのぶさんやカナエさん、煉獄さん、炭治郎さん……みんな優しいけれど、
同じ年頃の子供と、普通に遊んだり、くだらない話をしたりする時間は、まるでなかった。
トオルは、膝の上で杖くんをぎゅっと抱きしめ、目を細めた。
「幼馴染み……いたよね。
雪音クリスちゃん、立花響ちゃん、天羽奏ちゃん、風鳴翼ちゃん……
それに、時崎狂三ちゃん、ミツモト・ココアちゃん……
杖くんを手にした時から、ずっと会ってない。
会えるだけの時間すら、なかった……」
クリスは、いつも少しツンツンしながらも、トオルを守ってくれていた気がする。
響は、明るく笑って、みんなを引っ張ってくれた。
奏は、優しくて、みんなの心を繋いでくれた。
翼は、凛々しくて、頼りになった。
狂三は、ちょっと不思議で、時々からかうような笑顔を見せてくれた。
ココアは、元気いっぱいで、トオルを「トオルくん!」と呼んで、よくくっついてきた。
トオルは、静かに目を伏せた。
「みんな……元気かな。
僕、ダンジョンから帰ってきたら、すぐに会いに行きたいなって思ってたけど……
いつも、次の階層の準備とか、みんなの為のポーションを作ったり……
時間が、なくなっちゃうんだ」
杖くんは、トオルの頭を優しく撫で、いたずらっぽくも優しい声で言った。
「トオルちゃん……あなたは優しすぎるのよ。
自分の時間を犠牲にしてまで、みんなの笑顔を守ろうとする。
あの幼馴染みたちも、きっとあなたのことを待っているわ。
いつか、きっと……時間ができる日が来るはずよ」
トオルは、わずかに微笑んだ。
しかし、その笑みには、九歳の子供らしい寂しさが、ほんの少しだけ混じっていた。
「うん……そうだね。
僕、がんばるよ。
みんなが、笑顔でいられるように……
いつか、クリスちゃんたちとも、普通に遊べる日が来るといいな」
基地の廊下では、胡蝶カナエが静かに立ち、部屋の扉を見つめていた。
しのぶが、隣で優しく微笑む。
「トオルくん……少し、寂しそうね」
「ええ……でも、あの子は絶対に弱音を吐かないわ。
それが、トオルくんの優しさ……そして、強さ」
外では、雪が静かに降り積もり始めていた。
ガンダムとザクは白い雪に覆われ、犬型ゴーレムたちが静かに見守る中、
トオルは、幼い頃の約束を胸に、今日もまたダンジョンへの準備を始めた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、失われた幼馴染みたちの笑顔を思い浮かべながら、
ただ、みんなの未来を守るために、静かに歩み続けていた。
霧の港町は、少年の優しさと、雪の白さに包まれながら、静かに輝き続けていた。