杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
ダンジョンから這い上がってきた少年は、まるで夢から覚めたように目を瞬かせた。150階の深淵から、三日間。仮面ライダーたちと杖くん、そしてトオル自身が生み出した魔法の奔流が、怪物たちの波を切り裂き、地上へと導いたのだ。
自衛隊のヘリコプターが轟音を立てて舞い降りた。砂埃が舞い、昭和の装備――旧式の61式戦車が待機し、82式偵察車がエンジンを唸らせる中、炎のように赤い制服の隊長が駆け寄ってきた。
「少年! 無事か!」
煉獄杏寿郎――三佐。声は大きく、力強く、まるで炎が燃え上がるような響きだった。「うむ! よくぞ生きて帰った! 俺の部隊が保護するぞ!」
隣に立つのは、穏やかな目をした若い隊員――竈門炭治郎。二十代半ばの二尉。静かな声で、「大丈夫ですか? 怪我はないですか?」と、優しく手を差し伸べる。善逸と伊之助も、成人した自衛隊員らしい落ち着いた口調で周囲を警戒していた。泣き言などない。ただ、任務を遂行する大人の顔だ。
トオルは杖を握りしめたまま、ぼんやりと頷いた。
「僕……佐藤トオル。……杖くんが、ライダーさんたちが、助けてくれたよ」
その言葉に、杏寿郎は大きく頷いた。「うまい! いや、素晴らしい心構えだ! 基地へ連れて行く。家族には連絡済みだ。お前は今、国の機密として守られる」
トオルは基地の地下施設に収容された。家族には「保護されている」とだけ伝えられ、再会は許されなかった。トオルの存在自体が、研究対象であり、秘匿すべきものだったからだ。
そこに、二人の女性自衛隊員が付き添いとなった。保護者役だ。
胡蝶しのぶ――一尉。常に微笑みを浮かべ、蝶の髪飾りを思わせる優雅な動き。丁寧で柔らかな口調だが、言葉の端々に鋭い光が宿る。「ふふ、トオルくん。怪我はないのですか? もし痛いところがあったら、優しく――いえ、ちゃんと診てあげますね」
姉の胡蝶カナエ――二尉。ほんわかとした笑顔で、優しい声。「あらあら、かわいい子ね。疲れたでしょう? ゆっくり休んで。姉さんが温かいお茶を入れてあげるわ」
二人は交代でトオルの側にいた。昭和の基地内は、鉄の匂いと蛍光灯の光。外は霧の港町。自衛隊の装備はすべて58年基準――64式小銃、旧型ジープ、紙の地図と無線機。
そして、訓練が始まった。
杖くんは、地上の安全な部屋で人の姿になった。大人の女性。銀髪に緑の瞳、優雅でいたずらっぽい微笑み。モデルは古の魔導書に記されたような、神秘的な美女――トオルには「杖くん」としか呼ばれないが、その姿はトオルにだけ絶対の愛情を注ぐ。
「トオルちゃん、まずは基礎よ。攻撃魔法からね」
彼女は優しく手を重ね、膨大な知識を流し込む。トオルはスポンジのように吸収した。炎の矢、氷の槍、雷撃。防御の結界、回復の光。すべてが、瞬時に身につく。
「すごい……僕、こんなにできるんだ」
「ええ、トオルちゃんの才能は、私の想像以上だわ。ふふ、魔神だってびっくりよ」
特に、召喚魔法にトオルは夢中になった。
「もっと、ヒーロー以外も……呼んでみたい」
杖くんが微笑む。「いいわよ。あなたが望むなら」
まず召喚されたのは、死の騎士――デスナイト。
黒い全身鎧に真紅の紋様、悪魔の角の兜。腐り落ちた顔の眼窩に赤い光が灯る。身長二メートルを超え、タワーシールドと赤黒いオーラのフランベルジュを構える。喋らない。ただ、深く頷き、忠誠を示す。トオルが手を伸ばすと、静かに膝をつき、守護の意思を伝えた。
次に、エルダーリッチ。
骸骨の魔法使い。黒いローブに覆われ、杖を握る高位アンデッド。眼窩に青白い輝き。知性が高く、落ち着いた声で語る。「主よ。我はエルダーリッチ。汝の軍勢として、永遠に仕えん」
さらに、見目麗しい妖精たち。トオルはこの時代、一般的なファンタジーすら知らない。ただ「きれいな人たち」と感じただけだ。金髪のロングヘア、小柄で尖った長い耳、切れ長の瞳。アーモンド型の目が優しく輝く。草色のレザー鎧を纏い、精霊を従える妖精の少女たち。彼女たちはトオルに微笑み、契約を結んだ。
そして、仮面ライダーたちも増えた。
V3、ライダーマン、アマゾン、X、ストロンガー。トオルの魔力で強化され、鋼の体はさらに輝く。1号と2号とともに、トオルの傍らに並ぶ。
「俺たちがいる。トオル」
「絶対に、守るぞ」
一ヶ月。トオルは毎日、30階から150階までを探索した。自衛隊が立ち入ることすら許されない深淵を、ライダー軍団と死の騎士、エルダーリッチ、妖精たちが守る。怪物は粉砕され、魔力は天井知らずに膨張した。知識も増え、オリジナル魔法が次々と生まれる。
ある日、杏寿郎が一冊の本を持ってきた。英語版のダンジョンズ&ドラゴンズ。昭和58年当時の、厚いルールブック。翻訳魔法で読み解いたトオルと杖くんは、目を輝かせた。
「すごい……これ、僕の魔法に似てる! でも、もっと細かいルールが……」
杖くんがくすくす笑う。「あら、素晴らしいわね、トオルちゃん! これを基に、新しい魔法を開発できるわ。召喚の階層、呪文の体系……私たち、もっと強くなれる!」
しのぶが微笑みながら傍らで。「ふふ、トオルくんったら天才ですわね。でも、頑張りすぎないで。姉さんがちゃんと見守ってますから」
カナエが優しくお茶を差し出す。「そうよ。あなたはもう、立派な魔法使いさん。家族も待ってるわ。でも今は、ゆっくりね」
トオルは頷いた。心の中で思う。
(僕、強くなるよ。みんなを守るために。杖くん、ライダーさんたち、デスナイトさん、エルダーリッチさん、妖精さんたち……そして、自衛隊のお兄さんお姉さんたちと一緒に)
基地の外では、霧がまだ濃い。だが、少年の目は、もう深淵の闇すら恐れていなかった。
訓練は続く。魔力は増大し、召喚の軍勢はさらに膨らむ。
これは、まだ始まったばかりの、人類史上最大の魔法使いの、第二章だった。