杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんと故郷の酒と笑顔

岩内の港町は、雪が薄く積もり始め、漁師たちの家々から温かな灯りが漏れていた。

トオルは、基地から珍しく外出し、幼い頃から馴染みの酒屋の路地に立っていた。

九歳の少年は、分厚いマフラーを首に巻き、杖くんを抱きしめたまま、静かに中を覗き込んでいる。

酒屋の奥では、ギムリがいつものように大きな杯を傾けていた。

ドワーフの戦士は、髭を酒で濡らしながら、豪快に笑う。

トオルが毎月渡すお小遣いのほとんどは、こうしてギムリの酒代になっていた。

他の召喚獣たち――アラゴルンやレゴラス、ボロミア――も時折加わり、賑やかな宴が繰り広げられる。

ギムリが、杯を高く掲げて叫んだ。

「ほう! この地の酒は、実に味わい深い!

トオルがくれた金で飲む酒は、格別だぞ!」

レゴラスが、優雅に微笑みながら杯を合わせ、

アラゴルンが、静かに頷く。

彼らは、遠い中つ国を思い出しながらも、岩内の酒と地元のつまみに舌鼓を打っていた。

トオルは、路地の影からその様子をじっと見つめていた。

お酒の匂いは、少年にとって少し苦手だった。

鼻を突くような、強い匂いが、どうしても慣れない。

でも――

「みんな……楽しそうだね」

トオルは、杖くんを抱きしめながら、優しく微笑んだ。

九歳の瞳に、寂しさなど微塵もない。

ただ、純粋な嬉しさが溢れていた。

杖くんが、人の姿でトオルの隣に立ち、銀髪を優しく撫でながら囁いた。

「トオルちゃん……お酒の匂いは苦手なのに、よく我慢するわね。

でも、あの子たちにとって、この時間がどれだけ大切か……あなたはちゃんとわかっているのね」

トオルは、小さく頷いた。

「うん……ギムリさんたちが、仲良く酒を飲んで、昔の話や戦いの話をしているのを見るのが、何よりも嬉しいんだ。

僕が杖くんを手にした時から、みんなは僕の為に戦ってくれている。

だから、僕も……みんなが喜ぶことをしてあげたい」

酒屋の主人と、地元の漁師たちが、ギムリのテーブルに次々とつまみを運んでいた。

塩辛、干物、飯寿司、漬物――岩内の冬の味覚が、溢れんばかりに並ぶ。

漁師の一人が、ギムリの肩を叩きながら言った。

「よし、ドワーフの旦那!

今日は飯寿司をたっぷり持ってきたぜ。

トオル坊の分も、ちゃんと食わせてやってくれよ。

あの子は……基地で大変だろう?

俺たちも、坊のことが心配でならん」

もう一人のおばさんが、塩辛の瓶を追加しながら、

「そうよ。

トオルちゃん、いつも笑顔だけど……まだ九歳なのに、あんな恐ろしいところへ一人で行くなんて。

ギムリさん、もし何かあったら、すぐに教えておくれ。

私たちも、できる限り支えるから」

ギムリは、杯を置いて豪快に笑った。

「はっはっは! 安心しろ、岩内の者どもよ!

トオルは、わしらドワーフの誇りだ。

この酒とつまみ、しっかり受け取っておく!

あの子が笑顔でいられるよう、わしらが守る!」

トオルは、路地の影でその言葉を聞き、胸が熱くなった。

地元の人たちも、トオルのことをずっと心配してくれている。

基地に閉じ込められているような生活なのに、みんなの優しさが、こうして届いてくる。

「みんな……ありがとう」

少年は、そっと呟いた。

お酒の匂いは苦手でも、みんなが喜んでいる姿は、何よりも大切で、かけがえのないものだった。

杖くんが、トオルの頰に軽くキスをして、いたずらっぽく笑った。

「トオルちゃん……あなたは本当に、優しすぎるわ。

ギムリさんたちも、地元の人たちも、あなたの笑顔を守るために、こうして集まってくれているのよ。

いつか、もっとゆっくり、みんなと過ごせる日が来るといいわね」

トオルは、杖くんを抱きしめ直し、雪の降る路地を歩き始めた。

基地に戻る道中、冬の風が冷たいけれど、心は温かかった。

基地の食堂では、胡蝶しのぶとカナエがトオルを待っていた。

ガンダムとザクは雪に覆われ、犬型ゴーレムたちが静かに見守る中、

トオルは、今日もまた、みんなの笑顔を守るために、静かに歩み続けていた。

人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、故郷の酒と地元の優しさを胸に、

ただ、世界を優しく照らし続けていた。

霧の港町は、少年の光と、雪の白さと、酒の香りに包まれながら、輝き続けていた。

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