杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
自衛隊基地の資料室は、雪の降る窓から差し込む淡い光に照らされ、静かに息づいていた。
机の上には、トオルが今日も持ち帰ったばかりの資料が山積みになっていた。
数百枚から数千枚に達する分厚いファイル。
その一枚一枚に、トオルの丁寧な字と、繊細なスケッチが並んでいる。
ダンジョンでは、どの階層でも新種のモンスターや植物、昆虫、鉱石が発見される。
同じ種でも亜種や希少種が無数に存在し、姿は地球上の生物に似ていながら、その生態や危険度は天と地ほど違っていた。
トオルは、九歳の小さな手でペンを走らせながら、静かに呟いた。
「この階層のクリスタルワーム……普通のミミズに似てるけど、体長三メートルで、触れるだけで麻痺毒を出すんだ……
亜種の『輝晶ワーム』は、光を吸収して爆発する……
みんなが知らないと危ないよね」
隣に人の姿で座る杖くんが、優しくトオルの銀髪を撫でた。
「トオルちゃん……あなたは毎日、こんなにたくさんの新種を記録しているわ。
政府に提出する資料は、もう数千枚を超えているのよ。
それでも、あなたは『みんなの為に』と、決して手を休めない」
トオルは、わずかに微笑んだ。
「うん……僕が記録しなかったら、自衛隊の人たちが、知らないモンスターに襲われるかもしれない。
植物も、昆虫も、鉱石も……全部、地球にはないものばかり。
似てるけど、危険度は全然違うんだ。
この『血晶茸』は、見た目は普通のキノコなのに、胞子を吸うと一瞬で血を固めてしまう……
でも、ちゃんと処理すれば、止血剤になるんだよ」
資料室の扉が静かに開き、胡蝶しのぶとカナエが入ってきた。
しのぶが、優雅に微笑みながらファイルの山に目をやり、
「ふふ……トオルくん、またこんなに……
政府の保管庫は、あなたの資料でいっぱいだそうですわ。
厳重に、鍵も魔法もかけられて、誰にも触れられないように」
カナエが、穏やかに頷いた。
「あらあら……新種の昆虫図鑑だけでも、すでに三冊目ですもの。
同じ種の亜種が、十種類以上も……
トオルくん、あなたの目と知識がなければ、人類は今頃、ダンジョンの深淵で何度も全滅していたでしょうね」
煉獄杏寿郎が、廊下から豪快に笑いながら顔を覗かせた。
「うむ! トオルの記録は、我々の命綱だ!
炭治郎も、今日の報告書に『トオルくんの資料のおかげで三十階の新種を事前に察知できた』と書いていたぞ!」
トオルは、照れたように頰を赤らめ、
「僕……ただ、みんなが笑顔でいられるように、記録してるだけだよ。
無限の図書館の知識を、全部書くわけじゃない。
でも、危険なものは絶対に知っておいてほしい……」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたは本当に、優しすぎるわ。
同じ種でも、亜種や希少種が無数にある。
姿は似ていても、危険度は天と地。
それでも、あなたは一つ一つ、丁寧に描いて、言葉にして、政府に届ける。
その資料は、今や国家機密として、厳重に保管されているのよ』
トオルは、窓の外の雪を見つめながら、小さく頷いた。
「うん……僕の記録が、少しでもみんなの役に立てばいいな。
明日も、きっと新しいものが待ってる……」
基地の外では、雪が静かに降り積もり始めていた。
ガンダムとザクは白く染まり、犬型ゴーレムたちが静かに見守る中、
トオルは、今日もまた、みんなの笑顔を守るために、静かに歩み続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、ダンジョンの無限の新種を記録しながら、
ただ、世界を優しく照らし続けていた。
霧の港町は、少年の光と、雪の白さと、膨大な資料の重みに包まれながら、輝き続けていた。