杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
基地の地下図書室は、昭和の蛍光灯が淡く照らす中、古い紙の匂いと魔力の微かな残響が混じり合っていた。トオルは杖くんを膝に置き、床に広げた本の山に囲まれていた。ウルティマの古い英語版マニュアルと、ウィザードリィの日本語訳された攻略本。ページをめくるたび、トオルの瞳が輝く。
「杖くん……見て! このティルトウェイトって、すごいんだよ」
杖くん――レディ・アヴァロンは、銀髪を優しく揺らし、いたずらっぽく微笑んだ。
『ふふ、ティルトウェイトね。ウィザードリィの七レベル魔法。核爆発のような破壊力を、全敵に10から150ポイント与えるわ。放射線はないけど……まさしく小型核爆弾。トオルちゃんが使ったら、ダンジョンごと吹き飛ばしちゃうかも』
トオルは少し困った顔で頷いた。
「うん……だから、使わないようにしてる。許可制にしたんだ。自衛隊の人たちに相談して」
ウィザードリィの死者復活魔法ディとカドルトも同様だった。高位の僧侶魔法で、死者を蘇らせるが、失敗すれば灰に変えたり、それも失敗するとロストする。ウルティマのレザレクトも、死者を蘇生させる八番目の魔法。膨大なマナと経験を必要とし、成功すれば傷をすべて癒して命を戻す。だが、悪用されれば……。
「これも、許可制にしたよ。誰かを蘇らせるの、怖い……」
トオルは本を閉じ、両手を広げた。空間が歪み、光の渦が生まれる。ウィザードリィの敵や味方――狂った王や戦士たち――ウルティマの勇者や魔王の幻影。召喚された彼らは、静かにトオルの前に並ぶ。
さらに、指輪物語の一つの指輪。闇の力で持ち主を蝕み、世界を支配しようとする恐ろしい力。エターナル・チャンピオンシリーズのストームブリンガー――魂を吸い取り、持ち主に力を与えながらも、永遠の呪いをかける剣。トオルはこれらを自作したが、効果があまりに強力すぎた。
「これ……人には渡せないよ。封印しなきゃ」
杖くんが優しく頷く。
『ええ、そうね。トオルちゃんの優しさが、封印を決めたのよ』
グイン・サーガのグインは、召喚された中でも普通だった。豹頭の戦士。筋肉質の体に、黄金の瞳。トオルが気に入って、常に側に置いている。グインは無言でトオルの隣に立ち、守護者のように見守る。
指輪物語のフロド・バギンズと旅の仲間たち――サム、ガンダルフ、アラゴルン、レゴラス、ギムリ、ボロミア、メリー、ピピン――も召喚された。彼らはトオルに優しく語りかける。フロドが小さな声で、
「君は……僕たちより、もっと大きな旅をしてるんだね」
ガンダルフが杖を地面に突き、トオルに魔法の話を聞かせる。古代のルーン、火の魔法、影の呪文。トオルは目を輝かせてメモを取る。仲間たちは優しく見守る。
吸血鬼ハンターDは、影のようにトオルの側に立っていた。黒いマント、銀の牙。無言で、ただ存在するだけで威圧的だが、トオルには穏やかだ。
そして、呼んでもいないはずの者たちが立っていた。最初に立っていたのは、魔界都市新宿から来た魔界医師ドクター・メフィスト。長く黒い髪を胸まで伸ばし、青い瞳が冷たく輝く美貌の男。白衣を纏い、妖しい微笑みを浮かべている。魔界都市シリーズの彼は、新宿の闇で最も強力な医師として知られ、患者を救うか、呪うか、自由自在。
ニンジャスレイヤー――フジキド・ケンジ。黒い忍装束に、覆面。亡くなった妻と子の仇を討つ復讐鬼。ナラクの魂に憑かれ、ニンジャを屠る機械と化した男。
マシュ・キリエライト――FGOのシールダー。ラベンダー色の髪、盾を構えた少女。デミ・サーヴァントとして、ガラハッドの力を宿す。穏やかな瞳でトオルを見つめる。
ニンジャスレイヤーが、低く問うた。声は機械のように冷たく、しかしどこか悲しげ。
「ドーモ。小さな戦士。なぜ戦う? お前は守られるべき子供だ。力があるないは関係ない。戦う理由はあるのか?」
トオルは杖くんを握りしめ、静かに答えた。
「みんなが笑顔になれるように……頑張ってるんだ。お父さん、お母さん、お姉ちゃん、妹。自衛隊の人たち、シェフさんたち、町の人たち……みんなが、幸せでいてほしいから」
ニンジャスレイヤーは、無言で頷いた。覆面の下の目が、わずかに揺れる。亡くなった子供と歳の近い少年の言葉が、胸に刺さったようだった。
ドクター・メフィストが、くすくすと笑う。
「面白い子だな。君の体、診てあげようか?」
マシュが、盾を軽く構えながら、優しく微笑む。
「先輩……いえ、トオルくん。私も、守るよ」
グインが豹頭を下げ、ガンダルフが杖を掲げ、フロドたちが優しく見守る。Dは影のように寄り添う。
トオルはみんなを見て、胸が温かくなった。
「ありがとう……みんな」
杖くんが、トオルの耳元で囁く。
『トオルちゃん……あなたは、もう一人じゃないわ。こんなにたくさんの仲間がいる』
基地の外では、霧の港町が静かに息づく。食と鉱と魔法の街。
七歳の少年は、深淵の知識を吸収しながら、優しい心で世界を変え続けていた。
人類史上最大の魔法使いの物語は、召喚された英雄たちと、静かに、深く続いていく