杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内の港町は、雪が静かに積もり、漁師たちの家々から温かな灯りが漏れていた。
世界中にトオルの名は知れ渡っていた。
九歳の少年がダンジョンの深淵で活躍し、無限の図書館を所有し、企業や各国から重要視される存在であることは、もはや誰もが知る事実となっていた。
トオルが使う初級の魔法でさえ、人類の科学では再現できていない。
同年代の少年少女たちにとっては、十分に嫉妬を煽る功績だった。
学校に登校しなくてもよく、自分たちが立ち入り禁止の基地に自由に出入りできる。
それもまた、子供たちの心に暗い影を落としていた。
PTAや教育委員会は相変わらず苦言を呈していたが、
「トオル少年が世界を守っている」という周知の事実の前では、誰も耳を貸さなかった。
政治家ですら、表立って非難することはできなくなっていた。
そんな中、一番激しくトオルを嫉妬していたのは、地元の網元の息子・佐々木健太だった。
十四歳の少年は、父親の威光を背に町で幅を利かせていたが、心の中には自分だけの序列があった。
その序列で「下」に位置するはずのトオルが、世界中から称賛され、英雄扱いされていることが、許せなかった。
「なんであいつなんだよ……」
健太は、自分の部屋で拳を握りしめ、歯ぎしりした。
特に許せなかったのは、幼馴染みたちの存在だった。
雪音クリス、立花響、天羽奏、風鳴翼、時崎狂三、ミツモト・ココア――
彼女たちがトオルを慕っているという噂を聞くたび、胸の奥が煮えたぎった。
嫌がらせをしようとしても、自衛隊の基地に入れるわけがない。
悪い噂を流そうとしても、父親に知られた途端、顔が腫れるまで殴られた。
「卑怯なことはするな」
網元の父親は、厳しい目で息子を睨みつけた。
「もし勝ちたいなら、お前も努力しろ。あの子はそうやって人類を守っているんだ」
健太は、父親の言葉を聞きながら、心の中で叫んでいた。
(全部、トオルのせいだ……
あいつが特別だから、俺が惨めになるんだ……
全部、あいつのせいだ!)
トオルは、そんな遠い嫉妬の視線を知らずに、基地の休憩室で杖くんを抱きしめていた。
九歳の少年は、今日も新たな魔法の調整を終え、穏やかな笑みを浮かべていた。
「みんな……元気だといいな……
僕、ただ、みんなが笑顔でいられるようにがんばってるだけなのに……」
胡蝶しのぶが、優雅に近づきながら、
「ふふ……トオルくん、世界中の人があなたを羨ましがっていますわ。
でも、あなたはいつも通り、優しいままですね」
胡蝶カナエが、穏やかに微笑みながら、
「あらあら……嫉妬する子もいるでしょうけれど、
トオルくんが世界を守っている事実は、誰にも否定できませんわ」
煉獄杏寿郎が、豪快に笑いながら、
「うむ! トオルよ!
お前は誇りを持て!
嫉妬など、強くなるための糧にすればいい!」
トオルは、少し寂しそうに、しかし優しく微笑んだ。
「うん……僕、みんなが笑顔になれるように、がんばるよ。
嫉妬されても……それでも、みんなを守りたいから」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……嫉妬する子がいるのは、仕方のないことよ。
でも、あなたはいつも通りでいいの。
あなたの優しさが、世界を少しずつ変えていくわ』
基地の外では、雪が静かに降り積もり始めていた。
ガンダムとザクは白く染まり、犬型ゴーレムたちが静かに見守る中、
トオルは、今日もまた、みんなの笑顔を守るために、静かに歩み続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、遠い嫉妬の視線を知らずに、
ただ、世界を優しく照らし続けていた。
霧の港町は、少年の光と、雪の白さに包まれながら、輝き続けていた。