杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
世界は、奇妙な静けさに包まれていた。
ダンジョンが誕生したおかげで、テロも内乱も戦争も、ほとんど姿を消していた。
身内で争っている余裕など、どこにもなかった。
人類共通の外敵が、深淵から毎日這い上がってくるのだ。
その脅威の前では、 Ideology も信条も、ただの内輪もめのように小さく見えた。
兵器産業は、一時は斜陽を迎えそうになっていた。
しかし、ダンジョンのおかげで新たな活路を見出した。
トオルと共同で開発するミスリル製装備、ドラグライト刀剣、マカライトプロテクター、老竜の鱗を応用した装甲――
これらは従来の戦車や戦闘機を遥かに超える性能を発揮し、軍需企業はむしろ活気づいていた。
米ソは、冷戦を事実上凍結し、手を取り合う形で情報と技術を共有し始めた。
アスラン王国で起きたスタンピードの映像は、世界中に衝撃を与えた。
ゼノモーフの群れ、ジェイソンやレザーフェイスのような殺戮者、数十体で一つの意思を持つ怪物たち。
あれを前にしては、核の傘もイデオロギーも無意味だった。
過激派のテロリストたちでさえ、自身の信条を周囲にぶつける前に、まずダンジョンへ赴くようになった。
「神の敵」と呼んでいた自衛隊やトオルとさえ、共同で階層を掃討するケースが増えていた。
共産主義者も同じだった。
「プロレタリアートの敵」ではなく、「人類の敵」が先に存在する以上、革命は後回しにせざるを得なかった。
兵器産業の重鎮たちも、同じ意見で一致していた。
「兵器は、人類があってこそ意味がある。
人類が滅びてしまったら、売る相手も残らない」
プロジェクト4のような、狂気じみた秘密結社ですら、表立った活動を自粛していた。
彼らにとっても、ダンジョンは「人類を滅ぼす前に自分たちが滅ぼされる」可能性が極めて高い存在だった。
魔の存在たちも、人間界とは距離を置くようになった。
悪魔、妖怪、幽霊――古来より人間を唆し、混乱を好んだ者たちでさえ、ダンジョンには近づかない。
深淵の瘴気と未知の脅威は、彼らにとっても脅威だった。
結果として、人間界を唆す行為を一時的に止め、静観する姿勢を取っていた。
トオルは、そんな世界の変化を、基地の休憩室で静かに聞いていた。
九歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、少し困ったように首を傾げた。
「みんな……争わなくなったんだね。
でも、それがダンジョンのおかげだなんて……
なんか、複雑だよ……」
胡蝶しのぶが、優雅に微笑みながら、
「ふふ……皮肉なものですわね。
人類が一つになるために、恐ろしい外敵が必要だったなんて」
胡蝶カナエが、穏やかに頷いた。
「あらあら……でも、トオルくんがいるからこそ、世界はまだ平和でいられるのですわ。
あなたが毎日、深淵へ潜ってくれているおかげです」
煉獄杏寿郎が、豪快に笑いながら、
「うむ! 外敵がいるからこそ、人類は結束する!
トオルよ、お前はまさにその象徴だ!」
炭治郎が、静かに微笑みながら、
「トオルくん……ありがとう。
君がいるから、僕たちは家族の顔を安心して見られる」
トオルは、みんなの言葉に、優しく微笑んだ。
「うん……僕、ただみんなが笑顔でいられるように、がんばってるだけだよ。
争いがなくなって……よかったね」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……世界は皮肉だけど、あなたの優しさが、少しずつ本当の平和に変えていくわ。
外敵がいる今だからこそ、人類は手を繋げたのよ』
基地の外では、雪が静かに降り積もり始めていた。
ガンダムとザクは白く染まり、犬型ゴーレムたちが静かに見守る中、
トオルは、今日もまた、みんなの笑顔を守るために、静かに歩み続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、奇妙な平和と外敵の影を胸に、
ただ、世界を優しく照らし続けていた。
霧の港町は、少年の光と、雪の白さに包まれながら、輝き続けていた。