杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
アメリカ、トオルが訪れた街の静かな住宅街。
雪は降っていないが、冬の冷たい風が木々の葉を揺らしていた。
ある午後、一組の老夫婦が、少女の家を訪ねた。
近所に住む、心優しい老夫婦だった。
夫は白髪を丁寧に整え、妻は温かな毛糸のショールを肩にかけ、二人とも穏やかな笑みを浮かべていた。
少女の母親が、驚きながらも温かく迎え入れた。
「おじいちゃん、おばあちゃん……どうしたの?」
老夫婦は、リビングのソファに腰を下ろし、ゆっくりと話し始めた。
夫が、柔らかい声で言った。
「実はね……あの時、トオル君がこの子に花を渡した場面を、遠くから見ていたんだ。
周りに美しい花と、風の精霊が舞う姿を見て……本当に感動したよ。
最近、二人とも身体の調子が悪くて、散歩にも出られなかったのに……
あの日以来、なんだか体が軽くなって、毎日外を歩けるようになったんだ。
お礼がしたくて、トオル君に会いたいと思ったけど、もう日本に帰ってしまったと聞いてね……」
妻が、優しく微笑みながら、
「ええ……本当にありがとうって、伝えたかったの。
あの光景は、私たちの心にも、魔法をかけてくれたみたい」
少女は、目を輝かせて、自分の部屋から大切に保管していた花を持って来た。
トオルが渡した紅い薔薇は、数週間経ってもなお、瑞々しく輝いていた。
萎れる気配すらなく、鮮やかな色を保ち続けている。
「これ……トオルくんがくれたお花。
水をあげなくても、ずっと綺麗なままなんだよ」
老夫婦は、その花を見て、目を細めて笑った。
夫が、少女の頭を優しく撫でながら、
「綺麗な花を貰って、本当に良かったね。
トオル君は、優しい子だ。
あの花のように、君の心もずっと輝いているよ」
妻も、温かな目で少女を見つめ、
「ええ、本当に……私たちも、あの花を見たら、元気が出たわ」
夫は、懐かしそうに目を細めて、続けた。
「そういえば……大学で教授をしている悪友が、トオル君の講演を聞けなかったと、電話で泣いておったよ。
なんでも、アトランティスとムーが実在していたそうだ。
始まりと終焉を見たかったと、いい歳した教授がわめいていた。
懐かしい友人の声を聞けて、良かったよ」
妻が、くすくすと笑いながら、
「今度は別の悪友が、魔法の書のことで愚痴を言って困ったわ。
『どうしてあの子はあんなにすごいんだ』って。
でも、みんなトオル君のことを、ちゃんと認めているのよ」
少女は、花を大切に胸に抱きながら、嬉しそうに頷いた。
「トオルくん……また会いたいな。
今度は、私もお礼を言いたい」
老夫婦は、少女の頭をもう一度優しく撫で、温かな笑顔で家を後にした。
遠く日本では、トオルがそんな出来事を知らずに、基地の休憩室で杖くんを抱きしめていた。
九歳の少年は、今日もみんなの笑顔を守るために、静かに微笑んでいた。
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたの渡した一輪の花が、遠いアメリカで、たくさんの人の心を温めているわ。
あなたは、本当に優しい魔法使いね』
基地の外では、雪が静かに降り積もり始めていた。
ガンダムとザクは白く染まり、犬型ゴーレムたちが静かに見守る中、
トオルは、今日もまた、みんなの笑顔を守るために、静かに歩み続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、遠い花の贈り物と人々の温かさを胸に、
ただ、世界を優しく照らし続けていた。
霧の港町は、少年の光と、雪の白さに包まれながら、輝き続けていた。