杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんとニンジャの教え

基地の地下、召喚の間。蛍光灯の淡い光が石の床を照らし、魔力の残響が空気を微かに震わせていた。トオルは小さな体をソファに沈め、杖くんを膝に抱いていた。グインが豹頭を静かに下げ、フロドと仲間たちが円卓のように並び、ガンダルフが杖を軽く地面に突き、Dが影のように壁際に立つ。マシュ・キリエライトは盾をそっと置いて座り、ドクター・メフィストは黒いコートを翻し、謎めいた微笑みを浮かべていた。

そして、ニンジャスレイヤー――黒い忍装束に覆面を被った男――が、トオルの真正面に立っていた。機械のような冷たい気配が漂うが、その目はどこか優しかった。

トオルは少し首を傾げ、優しい声で尋ねた。

「ニンジャスレイヤーさん……この世界には、ニンジャはいないみたいだけど……帰る? 元の世界に」

部屋が静かになった。誰もが息を潜め、少年の言葉を待った。

ニンジャスレイヤーは、覆面の下でゆっくりと首を振った。声は低く、しかし重く響く。

「ドーモ。守られるべき子供を放置して帰るわけにはいかない。それは大変失礼な事だ」

トオルは目を丸くした。

「失礼……?」

ニンジャスレイヤーは、ゆっくりと腕を組み、続けた。

「この世界は、俺のいた世界とは別だ。お前はニンジャを知らない。だから、教えてやる。ニンジャソウルとは……魂の残滓。古代のニンジャたちが自らを封じ、現代に蘇った存在だ。俺はナラクというニンジャソウルに憑かれている。妻と子を殺したニンジャどもへの復讐と、ナラクの殺忍の欲が重なり、俺はニンジャスレイヤーとなった。ニンジャソウルは、宿主と同じ性別しか憑依しない。記憶や自我を失う者がほとんどだが、強力な魂は残る。俺の場合……完全な融合だ」

トオルは真剣に聞き入った。杖くんがそっと手を重ね、優しく見守る。

ニンジャスレイヤーはさらに言葉を重ねた。

「ニンジャの心得は、アイサツから始まる。戦う前に必ず挨拶をし、相手もそれを返す。忍びの掟は厳しい。感情を見せず、任務を最優先に。だが、俺の道は違う。ニンジャを屠るための道だ。作動――すなわち戦い方は、ジツとカラテの融合。カラテ・ミサイル、インビンシブル・アティテュード……すべて、ニンジャソウルの力で発揮される。お前が知らないなら、いつでも教えてやる。だが、今は……お前を守るのが優先だ」

トオルは小さく頷き、目を細めた。

「ありがとう……ニンジャスレイヤーさん。僕、勉強するよ」

ニンジャスレイヤーは、無言で深く頷いた。覆面の下の目が、わずかに柔らかくなった。

トオルは次に、マシュとメフィストに向き直った。声はいつも通り、温かく。

「マシュさん、メフィストさん……二人も、元の世界に帰りたい?」

マシュ・キリエライトは、ラベンダー色の髪を軽く揺らし、盾を胸に抱きながら微笑んだ。穏やかで、どこか幼い瞳がトオルを見つめる。

「トオルくん……いえ、先輩。私の世界は、カルデアという施設で……でも、今はここにいる意味があると思います。私、ガラハッドの力を借りて、守るために生まれたようなものです。あなたがみんなを笑顔にしたいって言うなら、私も協力します。一緒に戦います。帰るのは……まだ、早いと思います」

ドクター・メフィストは、赤い瞳を細め、くすくすと笑った。黒いコートの裾を翻し、魔界の医師らしい神秘的な声で。

「ふふ、面白い少年だ。私の世界は魔界都市新宿……だが、君の体を診てみたいし、君の仲間として立つのは悪くない。元の世界? 帰る理由がないよ。ここで、君の『治療』を手伝うのも一興だ。協力するさ」

部屋に、静かな安堵の空気が流れた。

グインが豹頭を下げ、ガンダルフが「よく言った」と杖を軽く叩き、フロドが小さな声で「僕たちも、ここにいるよ」と微笑む。Dは影のように頷き、杖くんがトオルの耳元で優しく囁いた。

『トオルちゃん……みんな、あなたを選んだのよ。帰らないって。あなたが優しいから……みんな、側にいたいんだわ』

トオルはみんなの顔を順に見回し、胸がいっぱいになった。七歳の笑顔が、純粋に輝く。

「うん……みんな、ありがとう。僕、もっと頑張るよ。みんなが笑顔でいられるように」

ニンジャスレイヤーは、再び低く言った。

「ドーモ。ニンジャの心得、いつでも聞け」

マシュが盾を構え直し、メフィストがコートを直す。

召喚の間は、温かな沈黙に包まれた。英雄たちと少年の、静かな誓い。

深淵の外では、岩内の霧が優しく揺れ、世界の食卓がさらに豊かになっていく。

だが、ここではただ、守る者と守られる者の心が、静かに重なり合っていた。

人類史上最大の魔法使いの物語は、ニンジャの教えと、仲間たちの決意の中で、さらに深く続いていく。

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