杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
自衛隊基地の開発工房は、雪の降る外とは対照的に熱気に満ちていた。
トオルは、九歳の小さな体で作業台の前に立ち、杖くんを抱きしめたまま、真剣な表情で新しい装備の試作を進めていた。
「ビックボスさんたちの意見を、ちゃんと形にしたい……
みんなが、少しでも安全に戦えるように」
まず作ったのは、姿隠しのバンダナだった。
ビックボスがいつもつけているような、シンプルで実用的なデザイン。
昭和60年の科学技術では到底実現できない光学迷彩の代わりに、
トオルは「姿隠し」「音消し」「匂い消し」の三重のエンチャントを丁寧に施した。
バンダナを頭や首に巻くだけで、視覚・聴覚・嗅覚からほぼ完全に身を隠せる。
ただし、ダンジョン内でしか効果を発揮しないよう、厳密に調整されていた。
次に、腕時計型の敵探知装置。
ちょうど公開されていた映画『エイリアン2』に登場するモーション・トラッカーを参考に、
敵の位置、強さの度合い、おおよその数までが一目で分かるようにした。
もちろん、普通の時計としても正確に機能する。
トオルは、魔力を微妙に流すことで画面が浮かび上がる仕組みを工夫した。
三つ目は、小型イヤホン型の通信機。
年代的にまだ存在しない無線イヤホンをモデルに、
仲間同士の声がクリアに届くように設計した。
距離は、100階以降に潜らない限り、1階から99階まで問題なく使用可能。
これもダンジョン内限定の調整が施されていた。
トオルは、三つの試作品を机に並べ、満足そうに微笑んだ。
「これで……少しは役に立つかな」
すると、どこから聞きつけたのか、世界中の軍事産業関係者が次々と基地に集まり始めた。
アメリカ、ソ連、ヨーロッパ、日本国内の大手企業まで、
「ぜひ参加させてほしい」「共同開発を」「技術提供を」と、熱心な申し出が殺到した。
トオルは、少し驚きながらも、優しく言った。
「みんなが、ダンジョンで安全に戦えるようになるなら……
一緒にがんばりましょう」
ビックボスは、試作品のバンダナを手に取り、静かに頷いた。
「いい出来だ。
これなら、かなり役に立つ」
カズヒラ・ミラーも、腕時計型装置を眺めながら、
「モーション・トラッカーか……悪くない。
通信機も実用的だ」
トオルは、二人の言葉に笑顔を浮かべた。
「よかった……
これから、もっと改良していきたいです」
胡蝶しのぶが、優雅に微笑みながら、
「ふふ……トオルくん、世界中があなたの開発に注目していますわ。
本当にすごいことです」
胡蝶カナエが、穏やかに頷いた。
「あらあら……姿隠しのバンダナ、小型イヤホン、敵探知時計……
どれも、ダンジョン内でしか使えないように調整されているのが、トオルくんらしいですわね」
煉獄杏寿郎が、豪快に笑いながら、
「うむ! トオルの新しい装備は、我々の命をさらに守ってくれるだろう!」
トオルは、みんなの顔を見て、静かに微笑んだ。
「うん……みんなが、無事に帰ってこれるように、
僕、もっとがんばって作るよ」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたは本当に、優しすぎるわ。
世界中の軍事産業が集まる中でも、ただみんなの安全だけを考えている……
それが、あなたの魔法よ』
基地の外では、雪が静かに降り積もり始めていた。
ガンダムとザクは白く染まり、犬型ゴーレムたちが静かに見守る中、
トオルは、今日もまた、みんなの笑顔を守るために、静かに歩み続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、新たな装備の試作と世界の視線を胸に、
ただ、世界を優しく照らし続けていた。
霧の港町は、少年の光と、雪の白さに包まれながら、輝き続けていた。