杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
自衛隊基地に隣接するダンジョン入口は、雪混じりの風が吹き抜けていた。
トオルは、九歳の小さな体でMSF隊員たちの前に立ち、杖くんを抱きしめながら静かに魔法を重ねていた。
「みんな……危なくないように、防御魔法を何重にもかけておいたよ。
姿隠しのバンダナ、ちゃんと試してみてね」
ビックボスことヴェノム・スネークが、眼帯の奥の瞳を細めて頷いた。
カズヒラ・ミラーも、片腕で軽く肩を叩きながら、
「了解した、トオル。
まずは1階から10階まで、ゆっくり歩いてみる」
MSFの精鋭たちが、トオルが開発した「姿隠しのバンダナ」を頭や首に巻いた。
シンプルな布に、姿隠し・音消し・匂い消しの三重エンチャントが施された試作品だった。
一行はダンジョンに入った。
トオルは入口で杖くんと共に待機し、遠隔で見守る。
1階から10階までの浅い階層。
まずはゴブリンの群れの前を、隊員たちが堂々と歩いた。
十数体のゴブリンがこちらを向いていたが、誰も反応しない。
ただ通り過ぎる風のように、隊員たちの姿は完全に認識されていなかった。
「無反応……完璧だ」
一人の隊員が小さく呟いた。
続いて、嗅覚や索敵範囲が広い獣人種や獣型のモンスターの前を通過した。
鋭い鼻を持つ狼人間や、巨大な野犬型の魔物たちが鼻をひくつかせたが、
匂い消しのエンチャントが完璧に働いていた。
草を踏んでも、水たまりを歩いても、音は一切立たない。
食人植物の蔓が、すぐ近くを通過しても、微動だにしなかった。
そして、意図せず一人の隊員がゴブリンに軽くぶつかった瞬間――
ゴブリンは不思議そうな顔で周囲を見回し、
「ん……?」と首を傾げただけで、そこに人間がいるとは気づかなかった。
そのまま何事もなかったように歩き去った。
実験は完全な成功だった。
ビックボスは、無線でトオルに報告した。
「トオル……成功だ。
ゴブリンも獣人も、植物も、何も気づかない。
これなら、かなり深い階層でも使える」
トオルは、入口でホッと息を吐き、笑顔になった。
「よかった……
みんな、無事に帰ってこれて……」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたの作ったバンダナ、ちゃんと役に立ったわ。
伝説の傭兵たちも、驚いているみたいよ』
ダイアモンド・ドッグズの隊員たちは、ダンジョンから戻ると、興奮気味に報告を始めた。
ビックボスは、静かに頷きながら、
「これで、俺たちの戦い方が変わる……
トオル、ありがとう」
トオルは、みんなの顔を見て、優しく微笑んだ。
「うん……みんなが、安全に戦えるように、
もっと改良していくね」
基地の外では、雪が静かに降り積もり始めていた。
ガンダムとザクは白く染まり、犬型ゴーレムたちが静かに見守る中、
トオルは、今日もまた、みんなの笑顔を守るために、静かに歩み続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、新たな装備の成功と仲間たちの信頼を胸に、
ただ、世界を優しく照らし続けていた。
霧の港町は、少年の光と、雪の白さに包まれながら、輝き続けていた。