杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
自衛隊基地の食堂は、雪の降る窓から入る白い光と、湯気の立ち上る温かな空気に満ちていた。
ダイアモンド・ドッグズ――通称MSFの隊員たちが、長いテーブルを囲んで食事をしていた。
彼らの顔には、戦場を渡り歩いてきた男たちらしい硬さがあったが、同時に、どこか驚きと安堵の色が混じっていた。
一人のベテラン隊員が、フォークを置いてゆっくりと口を開いた。
「ここに来てから……驚くことしかねえな」
隣の男が、ダンジョンサーモンの身を頰張りながら、苦笑した。
「ああ。
アスラン王国のスタンピードの映像を見た時は、本気で震えたぜ。
人間同士の戦争より、よっぽど恐ろしい。
あんな化け物どもが、毎日這い上がってくる世界だなんて……
まさか俺たちが、そんな場所に潜ることになるとは思わなかった」
もう一人が、プロテクターを軽く叩きながら、感嘆の声を上げた。
「装備も別格だ。
渡されたこのプロテクター、銃弾じゃ傷一つつかない。
今、ドワーフたちが鍛造してるナイフの切れ味は……戦車の装甲も斬れるらしい。
俺たちが今まで使ってきたどんな武器より、遥かに上を行ってる」
食堂の隅では、あばれうしどりのステーキが大きな皿に山盛りで運ばれてきた。
隊員たちは、無言でそれを頰張った。
肉の旨味が口いっぱいに広がり、誰もが言葉を失うほどの美味しさだった。
一人が、ようやくフォークを置き、静かに言った。
「なんといっても……食事が美味い。
一流レストランでも滅多に食べられないダンジョンの食材が、毎日食える。
あばれうしどりやダンジョンサーモンを食べた時なんて、全員無言で皿を見つめてたぜ」
周囲から、くすくすと笑いが漏れた。
別の隊員が、杯を軽く掲げながら、
「大変かもしれないが……頑張ろうぜ。
トオルが資金を出してくれて、こんな装備と飯を用意してくれる。
俺たち傭兵に、これ以上の戦場はない」
全員が静かに頷いた。
ビックボスが遠くのテーブルからその様子を見守り、眼帯の奥でわずかに目を細めた。
トオルは、食堂の入り口近くでその光景を眺め、杖くんを抱きしめながら優しく微笑んだ。
「みんな……喜んでくれてるね。
僕、もっと美味しいものや、強い装備を作れるようにがんばるよ」
胡蝶しのぶが、優雅に近づきながら、
「ふふ……MSFの皆さんも、トオルくんの優しさに救われているようですわ」
胡蝶カナエが、穏やかに頷いた。
「あらあら……食事が美味しいと、士気も上がりますものね」
トオルは、みんなの笑顔を見て、静かに言った。
「うん……みんなが、無事に帰ってこれるように……
僕、がんばるよ」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたは本当に、優しすぎるわ。
伝説の傭兵たちにまで、こんなに温かな場所を与えるなんて……』
基地の外では、雪が静かに降り積もり始めていた。
ガンダムとザクは白く染まり、犬型ゴーレムたちが静かに見守る中、
トオルは、今日もまた、みんなの笑顔を守るために、静かに歩み続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、MSF隊員たちの驚きと決意を胸に、
ただ、世界を優しく照らし続けていた。
霧の港町は、少年の光と、雪の白さに包まれながら、輝き続けていた。