杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんと静謐のハサンと不可侵の結界

自衛隊基地の廊下は、雪の降る外の静けさと対照的に、穏やかな空気が流れていた。

トオルは、九歳の小さな体で杖くんを抱きしめ、いつものように資料室から休憩室へと歩いていた。

その時、気配を完全に消した影が、トオルの背後に忍び寄った。

黒いヴェールに包まれた少女――静謐のハサン。

山の翁ハサン・ザッバーハの名を受け継ぐ暗殺者として、初代の命により日本へ渡った彼女は、

一瞬でトオルの死角に入り、毒針を隠し持ったまま近づこうとした。

しかし――

トオルの周囲に張り巡らされた多重の防御結界が、静かに輝いた。

気配を消すなど、到底不可能だった。

ハサンは一瞬、目を細め、素直に足を止めた。

「……失礼しました。

初代山の翁ハサン・ザッバーハの命により参りました。

以後、お見知りおきを」

静謐のハサンは、ヴェールをわずかに払い、丁寧に頭を下げた。

その声は、静かで、しかしどこか冷たい刃のような響きを帯びていた。

トオルは、驚きながらも優しく微笑んだ。

「えっと……ハサンさん?

初代の……山の翁さんから?

僕、トオルです。よろしくね」

胡蝶しのぶが、すぐ傍で優雅に微笑みながら、

「ふふ……気配を消して近づこうとしたのですわね。

でも、トオルくんの結界は、そんな簡単には破れませんわ」

胡蝶カナエも、穏やかに頷いた。

「あらあら……毒も通じませんわよ。

トオルくんには、あらゆる毒に対する防御結界が複数張られていますし、

この世にもダンジョンにも、トオルくんの対毒耐性を貫通できる毒など存在しませんもの」

静謐のハサンは、わずかに目を伏せ、

「……確かに。

私の毒は、一切効きませんね。

初代の命は、トオル殿に協力し、ダンジョンの深淵を探ること。

どうか、よろしくお願いいたします」

トオルは、純粋な笑顔で頷いた。

「うん……一緒に、ダンジョンを守ろう。

僕、みんなが笑顔でいられるようにがんばるから」

杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。

『トオルちゃん……山の翁の暗殺者が、素直に挨拶に来るなんて。

あなたの結界と優しさが、彼女の刃を止めたのね』

基地の外では、雪が静かに降り積もり始めていた。

ガンダムとザクは白く染まり、犬型ゴーレムたちが静かに見守る中、

トオルは、今日もまた、みんなの笑顔を守るために、静かに歩み続けていた。

人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、新たな仲間と不可侵の結界を胸に、

ただ、世界を優しく照らし続けていた。

霧の港町は、少年の光と、雪の白さに包まれながら、輝き続けていた。

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