杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
アメリカ合衆国政府は、極秘裏に動き出した。
ホワイトハウスから発せられた指令は、ただ一つ――「ビックボスとの交渉」だった。
派遣されたのは、ターニャ・デグレチャフ。
幼い外見ながら、背の低さを補って余りある優秀な軍人として知られる彼女は、
大統領から「交渉の全権」を委ねられ、北海道の自衛隊基地へと向かっていた。
機内で、ターニャは書類を広げ、静かに思案を巡らせていた。
眼鏡の奥の瞳は冷たく、しかし鋭い光を宿している。
「ビックボス……ヴェノム・スネーク。
ザ・ボスの後継者と呼ばれる男。
地位や名誉では動かないだろう。
金でも、脅しでも、容易くは揺るがない。
彼が日本に留まる理由は……トオル少年か。
あの九歳の魔法使いが、彼の新しい戦場を与えた」
彼女は、窓の外に広がる雲海を眺めながら、唇をわずかに歪めた。
「大統領からは、交渉の全てを任されている。
アメリカの後ろ暗い機密を、彼がどれだけ握っているか……
それを確認し、可能な限り引き留めるか、少なくとも中立を保たせるか。
簡単な任務ではない」
ターニャは、書類を閉じ、静かに息を吐いた。
伝説の傭兵を相手に、どのような切り口で臨むべきか。
彼女の頭脳は、すでに幾つものシナリオを高速で組み立て始めていた。
一方、遠く北海道の自衛隊基地では、そんなアメリカの動きなど知る由もないトオルが、
いつものように休憩室で杖くんを抱きしめ、穏やかな笑みを浮かべていた。
「みんな……今日も元気かな。
新しい装備、ちゃんと使えてるといいな……」
胡蝶しのぶが、優雅に紅茶を淹れながら、
「ふふ……トオルくん、アメリカから使者が来るそうですわよ。
ビックボスさんとの交渉のため、だとか」
胡蝶カナエが、穏やかに微笑みながら、
「あらあら……伝説の傭兵さんを巡って、世界がまた動き始めていますね。
でも、トオルくんはいつも通りで大丈夫ですわ」
トオルは、わずかに首を傾げ、
「アメリカの……使者さん?
僕、ただみんなが笑顔でいられるようにしてるだけなのに……」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……アメリカの皆さんも、あなたとビックボスさんのことを気にかけているわ。
でも、あなたは心配しなくていいの。
世界は少しずつ、あなたの優しさで変わっていく……』
基地の外では、雪が静かに降り積もり始めていた。
ガンダムとザクは白く染まり、犬型ゴーレムたちが静かに見守る中、
トオルは、今日もまた、みんなの笑顔を守るために、静かに歩み続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、遠い大国の思惑など知らずに、
ただ、世界を優しく照らし続けていた。
霧の港町は、少年の光と、雪の白さに包まれながら、輝き続けていた。