杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんと過去の亡霊と交渉のテーブル

自衛隊基地の特別会議室は、雪の降る窓から入る白い光と、静かな緊張に満ちていた。

長テーブルの一端に、ビックボスことヴェノム・スネークが腰を下ろしていた。

眼帯の奥の瞳は穏やかだが、底知れぬ深さを湛え、角のような突起が彼の影をより鋭く見せている。

向かいに座ったのは、ターニャ・デグレチャフ。

幼い外見に似合わぬ冷徹な視線を向け、書類を丁寧に並べながら口を開いた。

「ビックボス……いえ、ヴェノム・スネーク。

大統領直々の使者として参りました。

まずは、率直に申し上げます。

あなたが日本に留まり、ダイアモンド・ドッグズをトオル少年の傭兵として活動させることについて、アメリカ政府は強い関心を抱いています」

ビックボスは、静かに葉巻を取り出し、火を点けた。

煙をゆっくりと吐きながら、

「関心、か。

面白い表現だな、ターニャ。

俺はもうアメリカ軍の人間じゃない。

ただの傭兵だ。

お前たちの後ろ暗い機密を、全部握っていると思っているなら……それは正しい。

だが、俺はそれを売り飛ばす気はない。

今は、ただ新しい戦場で戦っているだけだ」

ターニャは、眼鏡の奥で瞳を細めた。

「Operation Snake Eater……

あなたがザ・ボスと共に成し遂げた、あの作戦の後。

彼女が背負った全てを、あなたは今も忘れていないはずです。

そしてPeace Walker。

あなたがMSFを率いて、あの巨大兵器を止めた時のこと。

あの時のあなたは、まだ『伝説の傭兵』になる前でした。

今、あなたがトオル少年の側にいる理由を、私たちは知りたい」

ビックボスは、わずかに目を伏せ、ザ・ボスの名を聞いた瞬間、声のトーンがわずかに低くなった。

「……ザ・ボス。

彼女は、俺に全てを教えてくれた。

国に裏切られ、死を選んだ女だ。

俺は彼女の意志を継ぐために、戦い続けてきた。

Peace Walkerの時も、俺たちは『平和を守るための兵器』を止めた。

だが、今の俺は違う。

ダンジョンという、明確な外敵がいる。

トオルは……あの少年は、ただみんなが笑顔でいられるように戦っている。

俺は、そんな子供の背中を守るために、ここにいる。

それだけだ」

ターニャは、書類を一枚めくり、冷静に続けた。

「大統領は、あなたの行動を尊重すると言っています。

ただ……アメリカの機密が、万一漏れるようなことがあれば――」

ビックボスは、煙を吐き出し、静かに笑った。

「脅しはよせ、ターニャ。

俺はもう、祖国に縛られる義理はない。

だが、トオルがいる限り、俺はここで戦う。

お前たちが何を恐れているかはわかる。

俺が知っている『暗部』……

Operation Snake Eaterの真実も、Peace Walkerの影も、

全部、胸にしまっておく。

ただし、条件がある。

アメリカが、トオルを邪魔しないことだ」

ターニャは、わずかに息を止め、

やがて、ゆっくりと頷いた。

「……了解しました。

大統領に、そう伝えます」

会議室に、重い沈黙が落ちた。

二人の視線が交錯する中、遠くからトオルの声が聞こえてきた。

トオルは、廊下で杖くんを抱きしめながら、

少し心配そうに会議室の扉を見つめていた。

「ビックボスさん……大丈夫かな。

アメリカの人、怖い顔してた……」

杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。

『トオルちゃん……心配しなくてもいいわ。

ビックボスは、あなたを守るために戦っている。

過去の亡霊に囚われず、新しい戦場を選んだのよ』

基地の外では、雪が静かに降り積もり始めていた。

ガンダムとザクは白く染まり、犬型ゴーレムたちが静かに見守る中、

トオルは、今日もまた、みんなの笑顔を守るために、静かに歩み続けていた。

人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、遠い交渉の行方を知らずに、

ただ、世界を優しく照らし続けていた。

霧の港町は、少年の光と、雪の白さに包まれながら、輝き続けていた。

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