杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内の自衛隊基地は、霧の向こうで静かに息づいていた。基地の試験場――コンクリートの壁に囲まれた広場――では、61式戦車が低く唸りを上げ、エンジンを吹かしていた。運転手は緊張した顔で操縦桿を握り、試験官が無線で指示を飛ばす。
「よし、轢け!」
戦車のキャタピラがゆっくりと動き出し、マカライト鉱石で造られた盾――厚さわずか三センチの青みがかった板――に向かって突進した。金属同士の衝突音が響き、衝撃波が地面を震わせる。だが、盾はびくともしなかった。ひしゃげるどころか、凹みすら残さない。戦車はエンジンを唸らせて後退し、再び突進を繰り返したが、結果は同じだった。
試験官の一人が、呆然と呟いた。
「……ジュラルミンの盾の強度の、何十倍だ?」
隣の科学者が、メモを握りしめて頷く。
「拳銃弾では凹みすらできない。64式小銃の連射でも、小さな傷が付くだけ。戦車で潰そうとしても、ひしゃげない。マカライト鉱石……これ、革命です」
トオルが持ち帰ったマカライト鉱石は、基地の工房で即座に加工され、自衛隊用の盾とプロテクターに生まれ変わっていた。盾は軽量で、持ち運びが容易。プロテクターは胸当て、腕当て、脚当てに加工され、対弾性と対刃性が比較にならないほど高い。ダンジョン内三十階までの探索隊で、死亡率が劇的に低下した。銃弾が通じない怪物に襲われても、盾で受け止め、プロテクターが命を守る。
自衛隊は、ダンジョン内戦闘を想定して、銃火器だけに頼らない訓練を強化していた。弾数制限がある以上、近接戦闘は不可欠。刀や槍での戦闘を重視し、剣道の有段者、伝統的な剣術や槍術の使い手が集められた。基地内の道場では、朝から夕方まで竹刀の音と掛け声が響く。
「エイ! ヤー!」
「槍は突きで決める! 間合いを詰めろ!」
そんな中、ドラグライト鉱石が新たな革命をもたらした。マカライト鉱石よりも堅い金属で、青みがかった輝きに深い青紫の脈が走る。防具に加工するのは難しく、叩いても曲がらず、削っても刃が立たない。だが、工房の熟練工たちが何とか加工に成功した。日本刀の刀身、槍の穂先として、随時生産が始まった。
ドラグライト製の日本刀は、切れ味が異常だった。ダンジョンの怪物――ランポスの鱗も、ギアノスの甲殻も、一太刀で斬り裂く。槍の穂先は、突き刺した瞬間に怪物が崩れ落ちるほどの貫通力。剣士たちはこれを手に取り、道場で試し斬りをするたび、息を飲んだ。
「これ……本物の刀だ」
「怪物相手に、迷わず振れる」
トオルは基地の工房を訪れ、完成した刀と槍を眺めていた。杖くんを握りしめ、優しく微笑む。
「僕の鉱石で、みんなを守れるんだ……よかった」
杖くん――レディ・アヴァロンは、銀髪を揺らし、いたずらっぽく笑った。
『トオルちゃんの優しさが、鋼になったわ。マカライトで守り、ドラグライトで斬る……あなたは、もう自衛隊の希望よ』
煉獄杏寿郎が、工房の入り口で大声を上げた。
「うむ! これで三十階まで、もっと深く進めるぞ! トオル、よくやった!」
胡蝶しのぶが優雅に微笑み、
「ふふ、死亡率が下がったんですって。トオルくんのおかげですわね」
胡蝶カナエが穏やかに頷き、
「あらあら、みんなが安心して探索できるわ。ありがとう、トオルくん」
竈門炭治郎は、完成したドラグライトの槍を手に取り、静かに呟いた。
「これで……僕たちも、もっと安全にトオルくんを守れる」
試験場では、剣道有段者の隊員がドラグライト刀を構え、模擬戦を繰り返す。刀身が空を切り、風を裂く音が響く。槍術の使い手が、穂先を突き出し、仮想の怪物に刺し込む。
基地の外では、霧の港町が活気づき続けていた。シェフたちの厨房の火が灯り、鉱石の支社が鉄を叩く音が響く。
だが、地下の工房では、七歳の少年の心が、鋼の強さを生み出していた。
マカライトの盾が守り、ドラグライトの刃が斬る。
人類史上最大の魔法使いは、深淵の恵みを、地上の守りに変え続けていた。
物語は、まだ深く、強く続いていく。