杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
イギリスの空港は、雪混じりの冷たい風が吹き荒れ、厳重な警備に包まれた異様な緊張感に満ちていた。
政府専用機のタラップが下りた瞬間、世界中のマスコミが一斉にシャッター音を響かせ、テレビ局のカメラが殺到した。
緊急速報が各国で流れ、画面には「魔法少年トオル、英国到着」の文字が大きく躍った。
九歳の少年が、ダンジョンの深淵を一人で探索し、無限の図書館を所有し、世界を変える武具を生み出す――その存在は、もはや国家を超えた象徴となっていた。
トオルは、厚いコートに包まれた小さな体でゆっくりと降り立った。
杖くん(人の姿で)を右手に、コッコロを左手に連れ、深々と頭を下げた。
銀色の息が白く凍りつく中、少年の声は澄んで響いた。
「イギリスに呼んでいただき、ありがとうございます。
僕、トオルです。
知っていることを、ちゃんと話します」
王室顧問と政府高官たちが、驚きと敬意を込めて迎えた。
彼らの表情には、九歳の少年とは思えない威厳と、純粋な優しさに触れた驚きが混じっていた。
一人の高官が、丁寧に頭を下げ返した。
「トオル少年……ようこそ我が国へ。
王室と政府を代表して、心より歓迎いたします。
どうか、ごゆっくりお過ごしください」
トオルは、再び小さく頭を下げ、
「よろしくお願いします」
その瞬間、世界中のテレビ画面がトオルの姿を映し出した。
日本では緊急速報が流れ、岩内の港町では家族や地元の人々が息を飲んで見守った。
アメリカ、ソ連、ヨーロッパ各国でも、トオルの到着はトップニュースとなり、
企業は資源交渉を、学者は知識の開示を、王室は聖剣の真実を、それぞれ胸に秘めて画面を見つめていた。
出迎えの車列が、厳重な警備のもと空港を離れた。
トオル、コッコロ、杖くんは、黒塗りの高級車に乗り、王宮へと向かう。
車内は暖かく、窓から見えるロンドンの街並みが雪化粧を施して流れていった。
トオルは、窓に顔を寄せ、静かに呟いた。
「イギリス……きれいな街だね。
みんなが、笑顔でいられるように、ちゃんと話してこよう」
杖くんが、トオルの手を優しく握り、
「トオルちゃん……あなたはいつも通りでいいのよ。
エクスカリバーのことは、ただ真実を伝えるだけで十分」
コッコロが、トオルの隣で小さく頷き、
「トオル様……私も、一緒にいますから」
一方、王宮では、王室関係者と政府高官が緊急会議を開いていた。
彼らは、トオルが到着するまでの短い時間で、何を聞くべきかを激しく話し合っていた。
王室顧問が、声を低くして言った。
「まずはエクスカリバーの真偽を。
アーサー王と共に眠っているという情報……
もし本物なら、王位継承や国家の象徴に直結する。
少年に直接、場所を尋ねるべきか?」
外務大臣が、書類をめくりながら、
「場所だけでなく、聖剣の力についても。
王を選定する力があるとすれば……
トオル少年がどのように知ったのかも重要だ。
無限の図書館の知識か?」
軍事関係者が、厳しい顔で加わった。
「資源の交渉も忘れるな。
ダンジョン産のミスリルや老竜素材……
日本が独占している状況を、なんとか打破したい。
少年が好意的に応じてくれれば……」
学者代表が、興奮気味に、
「失われた文明の知識も!
アトランティスやムー……
始まりと終焉を見たという少年に、ぜひ詳しく聞きたい」
王室側の一人が、慎重にまとめた。
「手荒な真似は絶対に避ける。
少年はまだ九歳だ。
敬意を払い、誠実に問う。
エクスカリバーの件を最優先に、資源と知識の協力も並行して……」
車列は、王宮へと近づいていた。
トオルは、窓から見える荘厳な建物に目を細め、静かに息を整えた。
杖くんが、トオルの手を優しく握り、
「トオルちゃん……大丈夫。
あなたは、いつも通りでいいのよ」
トオルは、みんなの顔を見て、優しく頷いた。
「うん……僕、ちゃんと話すよ。
みんなが、笑顔になれるように」
王宮の門が開き、車列がゆっくりと中へ入っていった。
イギリス全土が、九歳の魔法使いの到着に息を潜め、世界は静かにその瞬間を見守っていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、遠き英国の問いを胸に、
ただ、世界を優しく照らし続けていた。
霧の港町は、少年の光と、雪の白さに包まれながら、輝き続けていた。