杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
イギリス王宮の謁見室は、会談終了の静けさに包まれていた。
シャンデリアの柔らかな光が絨毯に落ち、王室顧問や政府高官たちは、深く息を吐きながら席を立った。
トオルの言葉は、聖剣エクスカリバーの意志を、湖の貴婦人モーガン・ル・フェイの存在を、円卓の騎士たちの守護を、静かだが確かな響きで伝えた。
部屋にいた誰もが、九歳の少年の純粋さと、その背後に広がる無限の知識に圧倒されていた。
王室顧問が、静かに頭を下げた。
「トオル少年……あなたの言葉は、我々に多くの示唆を与えてくれました。
エクスカリバーが自らの意志で世界を選ぶ存在であること……
深く受け止めさせていただきます。
本日は誠にありがとうございました」
トオルは、深々と頭を下げ、
「こちらこそ、呼んでいただきありがとうございます。
僕、知っていることを、ちゃんと話せたと思います。
みんなが、笑顔になれるように……」
会談は大成功で終了した。
しかし、それは新たな波紋の始まりでもあった。
王宮の別室では、政府高官たちが緊急の会議を開いていた。
外務大臣が、届いたばかりの要請書類の山を前に、額を押さえた。
「トオル少年が訪英したことが、世界中に知れ渡った今……
要請が殺到しています。
企業からは、ダンジョン産資源の独占契約や新種素材の優先買取契約。
学者たちは、未だに解明されていない失われた文明の謎を聞きたいと。
貴族や上流階級からは、家族の病気の魔法治療を……
特に、大物貴族であるフランツ・フォン・マリーンドルフ卿からは、令嬢の難病治療を。
ジョージ・ジョースターⅠ世からも、同じく家族の病を……」
一人の官僚が、声を低くして言った。
「フランツ卿は、銀河を思わせるほどの影響力を持つ人物です。
ジョースター家も、古くから英国を支えてきた名門。
トオル少年は温厚で優しい性格だと聞いています。
こちらから頼めば、了承するでしょう。
しかし……国賓として招いたのです。
手荒な要請を連発すれば、英国の面目が丸潰れです。
どうするべきか……」
もう一人の高官が、書類をめくりながら、
「企業はミスリルや老竜素材の安定供給を望んでいます。
学者はアトランティスやムーの詳細を。
貴族たちは、魔法治療による延命や完治を……
トオル少年一人に、これだけの期待が集中している。
日本政府との調整も必要ですが、少年本人の負担が……」
会議室に、重い沈黙が落ちた。
誰もが、九歳の少年の優しさを理解しながらも、国家としての利益と礼儀の狭間で頭を悩ませていた。
一方、王宮の客室では、トオルが窓辺に立ち、雪の降るロンドンの街並みを静かに眺めていた。
コッコロが、温かな紅茶を淹れてくれ、杖くんが隣で優しく微笑んでいる。
トオルは、小さく息を吐き、
「イギリス……みんな、いろんなことを考えてくれているみたいだね。
僕、できる範囲で、みんなの役に立ちたい」
杖くんが、トオルの銀髪を優しく撫でながら、
「トオルちゃん……あなたはいつも、優しすぎるわ。
王室も、政府も、企業も、学者も、貴族も……
みんな、あなたの力を求めている。
でも、あなたの心は、決して曲がらない。
それが、あなたの強さよ」
コッコロが、トオルの手をそっと握り、
「トオル様……私も、一緒にがんばります。
どんなお願いでも、トオル様の優しさを大切に」
遠く日本では、胡蝶姉妹が基地の窓から空を見つめ、
煉獄や炭治郎たちが静かにトオルの無事を祈っていた。
イギリス王宮では、トオルの到着が新たな希望と期待を生み、
世界は、九歳の少年の次の言葉を静かに待っていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、遠き英国の願いを胸に、
ただ、世界を優しく照らし続けていた。
霧の港町は、少年の光と、雪の白さに包まれながら、輝き続けていた。