杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
イギリス王宮の控室は、雪の降る窓から差し込む白い光に照らされ、静かな緊張が続いていた。
トオルとの会談が終わった後、日本政府から正式な連絡が届いた。
内容は明確だった――「トオル少年との独占契約は認められない」。
イギリス企業の代表者たちは、会議室でその通告を受け、顔を曇らせた。
大手軍需企業や資源開発会社の重役たちが、テーブルを囲んでため息をついていた。
一人の企業幹部が、苦々しく言った。
「日本政府が待ったをかけたか……
我々はミスリルや老竜素材の安定供給を望んでいたのに。
独占契約ができれば、英国の産業は飛躍的に発展するはずだった」
もう一人の重役が、書類を叩きながら、
「トオル少年一人で素材を集めている現状を考えると……確かに負担が大きすぎる。
新種の素材が毎日のように発見されているという報告もある。
これ以上彼を忙しくさせるのは、人道的にも問題だ」
日本政府の担当者は、丁寧だが毅然とした態度で説明した。
「トオル少年は、世界を守るために活動しています。
独占契約を認めれば、他の国々も同様の要求をしてきます。
結果としてトオル少年の負担がさらに増大し、彼自身が持たなくなります。
現在でも、彼は日々ダンジョンの深淵に潜り、探索者や軍隊のための武具を開発し続けています。
日本政府としては、トオル少年の健康と安全を最優先に考えています」
イギリス企業側も、結局は納得するしかなかった。
彼らは、トオル少年の純粋さと、日本政府の強い姿勢を理解し、
「優先的な取引枠の設定」や「共同研究の推進」といった、現実的な代替案に切り替える方向で調整を始めた。
一方、学者たちへの対応も同時進行だった。
王立協会や各大学の代表者が集まり、トオルに会う機会を求めた。
しかし、トオルは穏やかだが明確に答えた。
「教えられる知識のみをお伝えします。
エクスカリバーがなぜ誕生したかについては……一切教えません。
それは、人類が知るべき知識ではありません。
ヴォイニッチ手稿の解読も、お断りします。
あれは解読すると精神を汚染します。
人間が住む次元とは別の次元の知識だからです」
学者たちは、深い失望を顔に浮かべながらも、トオルの言葉に静かに頷いた。
彼らは、少年の瞳に宿る真剣さと優しさに触れ、
無理強いをすることは諦めた。
王宮の客室に戻ったトオルは、窓辺に立ち、雪の降るロンドンの街並みを静かに眺めていた。
コッコロが温かな紅茶を淹れ、杖くんがそっと寄り添う。
トオルは、小さく息を吐き、
「みんな……欲しがっているね。
でも、僕一人で全部を背負うのは無理だよ。
少しずつ、みんなで分け合って、助け合えたらいいな」
杖くんが、トオルの銀髪を優しく撫でながら、
「トオルちゃん……あなたは本当に、優しすぎるわ。
独占を拒み、危険な知識を封じ、負担を分散させる……
それが、あなたの賢さと優しさよ」
コッコロが、トオルの手を握り、
「トオル様……私も、一緒にがんばります。
世界中の人々が、あなたの優しさに救われています」
遠く日本政府は、トオルの負担を最小限に抑えるための調整を急いでいた。
イギリス企業も、学者たちも、トオルの誠実な姿勢に触れ、
それぞれの道で前進を始めていた。
トオルは、窓の外に目を細め、静かに微笑んだ。
「僕……できる範囲で、みんなの役に立ちたい。
それが、一番の願いだから」
基地の外では、雪が静かに降り積もり始めていた。
ガンダムとザクは白く染まり、犬型ゴーレムたちが静かに見守る中、
トオルは、今日もまた、みんなの笑顔を守るために、静かに歩み続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、世界の願いと自分の限界を胸に、
ただ、世界を優しく照らし続けていた。
霧の港町は、少年の光と、雪の白さに包まれながら、輝き続けていた。