杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内の港町は、雪にすっかり覆われ、漁師たちの家々から立ち上る煙が白い空に溶けていく静かな冬を迎えていた。
小さな港町である。子供の数もそれほど多くなく、冬の道を歩く人影はまばらだった。
そんな町に、新たな住人たちが加わっていた。
ビックボス率いるダイアモンド・ドッグズの隊員たちと、アンデルセン神父を先頭とする武装神父隊の面々だ。
彼らは基地の近くに仮設の宿舎を構え、毎日ダンジョンに潜っていた。
自衛隊の精鋭でさえ苦戦する深層を、歴戦の傭兵と神父たちが連携して探索する姿は、町の人々にとって大きな安心となっていた。
トオルが一人で深淵に挑み続けていることを、町の誰もが知っていた。
だからこそ、彼ら新しい住人たちは「トオルを手助けしてくれている」存在として、自然と受け入れられていた。
ある雪の降る午後、町の通りを歩くダイアモンド・ドッグズの隊員たちに、年配の老夫婦が近づいてきた。
夫は厚いコートを着込み、妻は毛糸のショールを肩にかけ、二人とも穏やかな笑みを浮かべていた。
老夫が、隊員の一人の袖をそっと引き、頭を下げた。
「すまんね、突然……
あんたら、トオル坊の仲間だろう?
基地で一緒に戦っておるって聞いたよ。
うちの孫みたいなもんだ、あの子は。
どうか……トオルをお願いします。
あの子は優しすぎて、自分を大事にせん。
あんたらみたいな強い人が、そばにいてくれるだけで、安心できる」
妻も、目を細めて微笑みながら、
「ええ……トオルちゃんは、町の宝です。
毎日ダンジョンに行って、みんなのために戦ってくれている。
あんたらも、危ないところへ行ってるんでしょう?
どうか、無理はしないで……でも、トオルちゃんを守ってあげておくれ」
隊員たちは、戦場を渡り歩いてきた顔を少し緩め、静かに頷いた。
一人が、低い声で答えた。
「……わかった。
トオルは、俺たちの希望だ。
守るよ」
同じ頃、武装神父隊の者たちも町を歩いていた。
アンデルセン神父が先頭に立ち、ハインケルと由美江が続く。
彼らに声をかけたのは、杖をついた老婦人だった。
「神父様方……トオルちゃんのことを、よろしくお願いします。
あの子は、うちの孫と同じ年頃です。
毎日、怖いところへ一人で行ってるなんて……
神様が、あの子を守ってくださるように……
あんた方にも、お願いします」
アンデルセンは、狂気じみた笑みを一瞬浮かべた後、珍しく穏やかな顔になった。
「はは……少年は、神の使者だ。
我々は、神の名の下に守る。
安心せよ、老婦人」
由美江が、静かに頭を下げ、
「トオル少年の優しさは、私たちにも届いています。
全力で守ります」
町の老人たちは、トオルを自分の孫のように思っていた。
小さな港町で、子供の数が少ないからこそ、トオルの存在は特別だった。
自衛隊が守ってくれていることは知っていたが、ダイアモンド・ドッグズや武装神父隊のような「外の世界の強者」たちが加わったことで、町全体に安心が広がっていた。
トオルは、そんな町の温かさを知らずに、基地で新しい装備の調整を続けていた。
しかし、雪の降る道を歩く傭兵や神父たちの姿を見かけた老人たちは、必ず声をかけた。
「トオルをお願いします」
「どうか、無理はしないで」
「あの子を、守ってあげておくれ」
ビックボスは、そんな声を聞くたび、眼帯の奥で静かに目を細めた。
アンデルセンは、十字架を握りしめ、狂喜と慈悲の入り混じった笑みを浮かべた。
基地に戻った夜、食堂でトオルはみんなと食事をしていた。
エンペラーサーモンの刺身を頰張りながら、幸せそうに笑う少年の姿に、
新しく加わった者たちも、自然と笑顔になった。
トオルは、ふと窓の外の雪を見つめ、
「町の人たち……元気かな。
僕、もっとがんばらないと」
胡蝶しのぶが、優雅に微笑みながら、
「ふふ……トオルくん、町の人たちは、あなたのことをとても心配していますわ。
ダイアモンド・ドッグズの皆さんや、神父様方にも、『トオルをお願いします』と頼んでいるそうです」
トオルは、少し驚いた顔で、
「え……僕のために?
みんな、ありがとう……
僕、ちゃんと守ってもらってるよ」
杖くんが、トオルの耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……小さな町の人たちの愛情が、あなたを守っているわ。
新しい仲間たちも、あなたを孫のように思ってくれている……
本当に、温かい町ね』
基地の外では、雪が静かに降り積もり続けていた。
ガンダムとザクは白く染まり、犬型ゴーレムたちが静かに見守る中、
トオルは、今日もまた、みんなの笑顔を守るために、静かに歩み続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、九歳の心で、町の人々の願いと新しい守り手たちを胸に、
ただ、世界を優しく照らし続けていた。
霧の港町は、少年の光と、雪の白さに包まれながら、輝き続けていた。