杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内の自衛隊基地は、すでに世界の注目を一身に浴びていたが、政府中枢では別の議論が密やかに繰り返されていた。
「子供だ。七歳のガキだぞ。騙せばいい。奴隷のように扱えば、毎日宝物を運んでくるだろう」
そんな声が、霞が関の奥まった会議室で上がったこともあった。だが、すぐに一蹴された。
「杖くんがいる。あの超魔導兵器は、トオルくんを絶対に守る。しかも、トオルくんの魔法で助けられた自衛隊員は無数だ。煉獄三佐、胡蝶姉妹、炭治郎……全員が命の恩人としてトオルくんを慕っている。奴隷扱いなど、即座に反乱が起きる」
当時の総理大臣、中曽根康弘は、厳しい目で机を叩いた。
「愚かな意見は捨てろ。正当な報酬を支払い、互いの信頼を築く。それが国益だ。トオルくんは我々の希望だ。魔法使いとしてではなく、人として守る」
政治家たちは頷いた。報酬は税引き後の純利益としてトオルの口座に振り込まれ、トオルはそれをほとんど使わず、ただ「家族に会えたら……」と温めていた。
その頃、トオルは一月の間に150階から400階までを踏破していた。人間では踏み入れられない領域。空気は毒のように濃く、重力は気まぐれに変わり、壁は生き物のように脈打つ。だが、トオルにとってはただの散歩道だった。
ある日、ミスリルが発見された。
銀のように輝き、軽く、しかし鋼鉄よりも硬い伝説の金属。トオルは無造作に塊を収納空間から取り出し、基地の工房に置いた。
「これ、ミスリルだって。みんなの装備に使えるかな」
中曽根総理は、特別に岩内へ飛んだ。総理執務室の厳粛な雰囲気とは打って変わり、基地の会議室でトオルと対面した。総理は七歳の少年の前に膝をつき、深く頭を下げた。
「トオルくん……ありがとう。君が持ち帰ったミスリルは、日本を、世界を変える。君の功績に、心から感謝する」
トオルは少し照れくさそうに頭を掻いた。
「えへへ……ありふれたものだけど、よかった」
杖くんがそっと耳元で囁く。
『トオルちゃん……ここでは貴重なのよ。表情に出さないでね』
トオルは頷き、笑顔を保った。
この頃、トオルは錬金術に興味を持っていた。毎日、部屋でポーションを精製する。赤いポーション、青いポーション、緑のポーション……どれもが、現代の科学では再現不可能な回復薬だった。傷を瞬時に癒し、毒を中和し、疲労を吹き飛ばす。後に「エリクサー」と呼ばれるほどの強力さだったが、トオルにとっては「みんなの役に立つもの」だった。
グインに渡した無名の剣――トオルがミスリルとドラグライトで自作したもの――は、戦車の装甲をバターのように切り裂いた。グインは豹頭を下げ、静かに言った。
「主よ……この剣は、俺の生涯を賭けても守る価値がある」
フロドたちは、ミスリルの塊を見て目を丸くした。
「これ……中つ国では貴重なんだけど、いっぱいあるんだね」
トオルは優しく微笑んだ。
「だったら、みんなの装備を作ったらどうかな? 貴重な物なんでしょう? だったら、みんなを守ってくれるよ」
ガンダルフは杖を地面に突き、静かにアドバイスをくれた。
「トオルよ。魔法は強大だ。だが、決して闇側に行くな。サウロンのように、力に溺れてはならん。心を清く保て。優しさを失うな」
トオルは真剣に頷いた。
「うん……僕、みんなのために使うよ。闇にはならない」
Dに剣を差し出した時も、Dは短く答えた。
「俺には、この剣がある」
黒い鞘に収まった剣。トオルも杖くんも知らなかった。ここではない未来の地球の鉱石――おそらく、ナノテクノロジーと融合した未知の合金――でできた剣だった。Dは無言で鞘に手を置き、影のようにトオルの側に立った。
メフィストからは、魔界都市新宿の医術を直接師事してもらった。トオルの部屋の横に「メフィスト北海道病院」が建てられた。白い建物に赤い十字。病める者、苦しむ者、男女貧富関係なく、無料で治療を受けられる場所。メフィストは黒いコートを翻し、患者を診ながらくすくすと笑う。
「ふふ、面白い少年だ。君の体も、いつか徹底的に診てあげよう」
ニンジャスレイヤーは、トオルに静かに助言した。
「お前は正しき道を歩め。復讐という道を一度でも歩めば、太陽は二度とお前を照らさない。お前はそうなるな」
トオルは頷き、胸に手を当てた。
「うん……僕、みんなが笑顔になれる道を歩くよ」
基地の外では、霧が優しく港町を包む。ミスリルの装備が自衛隊に支給され、ポーションが隊員の命を救い、メフィストの病院が町の人々を癒す。
七歳の少年は、深淵の宝物を、ただ「みんなのために」と持ち帰り続ける。
中曽根総理は、帰りのヘリの中で呟いた。
「トオルくん……君は、日本の未来だ」
人類史上最大の魔法使いの物語は、ミスリルの輝きと、優しい心の中で、静かに広がっていく。