杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内の自衛隊基地、地下の召喚の間。蛍光灯の淡い光が石の壁を照らし、魔力の残響が静かに漂っていた。トオルはすでに眠りにつき、隣の部屋で胡蝶カナエが優しく見守っている。だが、この部屋にはトオルがいない。代わりに、召喚された者たちが円を描くように座っていた。
グインが豹頭を低くし、黄金の瞳を細めて最初に口を開いた。
「主は……俺たちを一心同体だと思っている。敬ってくれる。意志を優先してくれる。『彼らも一人の人間なのだから』と」
フロド・バギンズが小さな手を握りしめ、静かに頷いた。ミスリルのチェーンメイルが、わずかに光を反射する。
「トオルくんは、僕たちを……ただの召喚獣じゃなく、仲間として見てくれる。フロド・バギンズとして、サムとして、みんなを名前で呼んでくれる。あんなに優しい子、僕の旅でも見たことないよ」
サムワイズ・ガムジーが、隣で頷きながら呟いた。
「そうだよ、フロド。あの子は、俺たちの危機に真っ先に飛び込んでくる。『死んでほしくない』って、涙目で言うんだ。俺たちが盾になろうとしても、『傷ついてほしくない』って……あの子は、心優しい子供だ」
アラゴルンが剣の柄に手を置き、低く言った。
「俺たちは召喚獣。死んでもまた召喚されればいい。主を守るのが役目だ。だが、トオルはそう思っていない。『死んでほしくない』と、毎回祈るように言う。あの子の優しさが、俺たちを苦しめるほどだ」
レゴラスが弓を膝に置き、静かに微笑んだ。
「ダンジョンなどなければ……あの子は、ただの七歳の少年として、笑って暮らせただろう。家族と一緒に、普通の幸せを味わえたはずだ」
ギムリが斧を地面に立て、髭を撫でながら唸った。
「くそっ……だからこそ、俺たちは守るしかない。あの子が戦わなくていい日が来るまで、俺たちが盾になる。死ぬ? 死んだらまた呼べばいいさ。だが、あの子が泣く顔は見たくない」
マシュ・キリエライトが盾を胸に抱き、穏やかな声で言った。
「私も……トオルくんが笑顔でいられるなら、どんなに傷ついても構いません。でも、トオルくんはそれを許してくれない。だから、私たちはもっと強くならなきゃ」
ニンジャスレイヤーが覆面の下で低く息を吐いた。
「ドーモ。主は正しき道を歩んでいる。俺たちは、太陽が照らす道を守る。復讐の闇に落ちさせない。死ぬ? 俺は死んでも構わん。だが、あの子が悲しむなら……それは許せん」
Dが壁際に立ち、黒いマントを翻しながら短く言った。
「……俺も、同じだ」
グインがゆっくり立ち上がり、豹頭を上げた。
「俺たちは一心同体。主の心が俺たちを呼び、俺たちの意志が主を守る。いつか、あの子が戦わなくていい日が来るまで……絶対に、守り抜く」
ガンダルフが杖を軽く地面に突き、静かに笑みを浮かべた。
「ふむ……少年の優しさが、俺たちをここに留めている。闇に堕ちぬよう、俺も見守ろう。サウロンのように力に溺れぬよう……あの子を導く」
メフィストがくすくすと笑い、赤い瞳を輝かせた。
「ふふ、面白い集まりだね。俺は医者さ。主が傷つかないように、治療は任せてくれ。だが……あの子が俺たちを『人間』として見てくれる限り、俺もここにいるよ」
フロドがみんなを見回し、小さく頷いた。
「うん……トオルくんのために、僕たちはここにいる。いつか、戦わなくていい日まで……一緒に守ろう」
部屋に、静かな誓いが満ちた。誰もが無言で頷き、互いの目を見つめ合う。召喚獣たちは、ただの道具ではない。一人の人間として、トオルの優しさに応えようとしていた。
外の霧は優しく港町を包み、食堂の灯りが温かく揺れる。
トオルは眠りの中で、穏やかな寝息を立てていた。夢の中で、みんなが笑っている姿を見ているのかもしれない。
召喚の間では、守護者たちの話し合いが静かに終わった。
いつか、トオルが戦わなくていい日まで。
人類史上最大の魔法使いは、心優しい子供のままで、深淵の闇を照らし続けていた。
仲間たちは、ただ黙って、その背中を守ることを誓っていた。