杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
地下三十階。森林階層。
ここは霧に包まれた深い森だった。巨木の幹は苔に覆われ、陽光は葉の隙間から細く差し込むだけ。空気は湿り気を帯び、遠くで鳥のさえずりが響く。だが、その平穏は偽りだった。木々の奥に隠された小さな集落――エルフの隠れ里は、今、消滅の危機に瀕していた。
エルフたちは元々、別世界の住人だった。氏族間の戦争に敗れ、追われる身となった末に逃げ込んだ先が、このダンジョン内だった。危険は多いが、モンスターの侵入を巧みに避け、平穏な暮らしを続けていた。弓と魔法で森を守り、子を育て、歌を歌い、記憶を紡ぐ。それが彼らの最後の誇りだった。
しかし、ある日、エルダーゴブリン種の大侵攻が始まった。
最上位種のゴブリン。体躯は人間の二倍近く、緑灰色の皮膚に筋肉が盛り上がり、赤い目が狂気を宿す。知能が高く、群れを統率し、罠を仕掛け、魔法すら使う。数百のゴブリンが波のように押し寄せ、エルフの結界を次々と破壊していった。矢が雨のように降り、魔法の光が爆ぜるが、ゴブリンの数は減らない。エルフの戦士たちは次々と倒れ、子供たちの泣き声が森に響いた。
その時、トオルがいた。
杖くんを握り、仮面ライダー1号と2号、グイン、D、マシュ、ニンジャスレイヤー、メフィストを従えて、三十階を探索中だった。遠くから聞こえる悲鳴と、ゴブリンの咆哮。トオルは静かに息を吐いた。
「助けなきゃ……」
ニンジャスレイヤーが覆面の下で低く言った。
「ドーモ。ゴブリン=サン。ゴブリン死すべし。慈悲はない」
一瞬で戦場が動き出した。
仮面ライダーたちが先陣を切り、キックとパンチでゴブリンを吹き飛ばす。グインの無名の剣がミスリルの輝きを放ち、ゴブリンの首を刈る。Dの剣が影のように閃き、血を浴びずに敵を斬る。マシュが盾を構え、魔法の矢を弾き返す。ニンジャスレイヤーはカラテの型でゴブリンを粉砕し、「アイエエエ! ナンデ!?」というゴブリンの叫びを無視して次々と屠る。メフィストはくすくす笑いながら、毒を中和し、味方の傷を癒す。
トオルは杖を掲げた。
「ごめんね……でも、みんなを守りたい」
即死の魔法。痛みなく、安らかに。エルダーゴブリンの群れが、一斉に動きを止めた。体がふっと力を失い、地面に崩れ落ちる。苦痛の叫びはなかった。ただ、静かな眠り。
戦いは終わった。
森は静かになった。ゴブリンの死体が散らばり、血の臭いが漂う。エルフたちは呆然と立ち尽くし、やがて一人の長老がトオルの前に膝をついた。銀髪のエルフ女性。瞳は深い緑で、涙が光っていた。
「あなたは……救世主か」
トオルは杖くんを握りしめ、優しく首を振った。
「僕、佐藤トオル。ただ、助けたかっただけだよ」
エルフたちは互いに顔を見合わせ、震える声で言った。
「もう、ここには住めない……ゴブリンの残党が、また来るかもしれない。どこか、行き場がないか?」
トオルは少し考えて、笑みを浮かべた。
「地上にいかない? 地上なら、ダンジョンからのモンスターの脅威はないよ。自衛隊の人たちにお願いしてあげる。きっと、みんなを守ってくれる」
エルフの長老が目を丸くした。
「地上……? 私たちは、別世界の者だ。人間の世界に受け入れてもらえるのか?」
トオルは杖くんを抱きしめ、優しく頷いた。
「僕の仲間は、みんな違う世界から来てるよ。仮面ライダーさんも、グインさんも、Dさんも……みんな、僕を守ってくれてる。きっと、みんなも仲間になれるよ」
ニンジャスレイヤーが低く言った。
「ドーモ。地上は危険も多い。だが、主が言うなら、守る」
グインが豹頭を下げ、
「主よ。俺も、守る」
マシュが盾を構え直し、
「私も……みんなを守ります」
メフィストがくすくす笑い、
「ふふ、面白い。地上の病院に、エルフの患者が増えるかもね」
エルフたちは、互いに頷き合った。長老が深く頭を下げた。
「ありがとう、トオル。……私たちは、あなたを信じる」
トオルはみんなを見て、胸が温かくなった。
「うん……一緒に、地上へ行こう」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……また、新しい仲間が増えたわね』
三十階の森は、静かに息づき始めた。ゴブリンの死体は消え、エルフの隠れ里は、地上への道を歩み出す準備をしていた。
人類史上最大の魔法使いは、今日も優しい笑顔で、深淵の住人たちを地上へ導いていた。
霧の港町は、まだ知らない。新しい住民が、やってくることを。
後100話以上あるけど需要ありますか?
あったら感想で書いてくれると嬉しいです