杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内の自衛隊基地、正門から少し離れた広場は、霧の中で異様な光景に包まれていた。
トオルが先頭に立ち、杖くんを握って歩いてくる。その後ろに、銀髪や金髪のエルフたちが五十人近く、静かに並んでいた。長耳が風に揺れ、緑や青のローブが霧に溶け込む。弓を背負った戦士、子供を抱いた母親、杖を持った長老……別世界の住人たちが、初めて地上の空気を吸っていた。
基地の警備隊員が、64式小銃を構えたまま固まった。
「……何だ、あれ」
「エルフ……? 本物か?」
煉獄杏寿郎三佐が駆け寄り、炎のような声で叫んだ。
「うむ! トオル! これは一体どういうことだ!」
トオルは優しく笑って、杖くんを抱きしめた。
「みんな、ダンジョンで生活してたエルフさんたちなんだ。三十階の森林階層に隠れてたんだけど、エルダーゴブリンに襲われて……助けたら、もう住めなくなっちゃったって。だから、地上に来てほしいって」
胡蝶しのぶが蝶のような微笑みを浮かべながら、目を細めた。
「ふふ……別世界の住人ですって? トオルくんらしいわね。でも、五十人も……」
胡蝶カナエが穏やかに頷き、
「あらあら、大変ね。でも、放っておけないわよね」
自衛隊の面々は一瞬呆然としたが、すぐに動き出した。総勢五十人前後。炊き出しと寝床の準備で、基地は大忙しになった。隊員たちがテントを張り、簡易厨房を設営し、毛布を運び出す。炭治郎が薪を割り、我妻善逸が冷静に配置を指示し、嘴平伊之助が大声で「早くしろ! 寒いだろ!」と叫ぶ。
トオルも、召喚獣たちも、当然のように協力した。
仮面ライダー1号と2号がテントの骨組みを素早く組み立て、グインが重い資材を軽々と運ぶ。Dは影のように動き、テントの固定を手伝う。マシュが盾を置いて子供たちに毛布を配り、メフィストがくすくす笑いながら、エルフの怪我を診察する。ニンジャスレイヤーは無言で薪を割り、火を起こす。
トオルはエルフの長老に微笑みかけた。
「みんな、ちょっと待っててね。ご飯、作ってくるから」
長老が深く頭を下げた。
「ありがとう……人間の世界は、こんなに優しいのか」
トオルは杖くんを抱き、仲間たちに言った。
「当座の食料、採ってくるよ。あばれうしどりの群れ、狩って持って帰るね」
一同が頷く。
仮面ライダーたちが先陣を切り、グインとニンジャスレイヤーが並び、Dが影のように従う。トオルは杖を掲げ、即死の魔法を準備した。
「あばれうしどりさん……ごめんね。でも、みんなのために」
群れは瞬時に静かになった。痛みなく、安らかに。トオルは祈りを捧げ、収納空間へ収めた。大量の霜降り肉と脂の塊。地上に戻ると、隊員たちが目を丸くした。
「これ……一回の狩りでこんなに!?」
炊き出しはすぐに始まった。あばれうしどりのステーキ、煮込み、焼き肉。エルフの子供たちが初めて味わう肉の甘みに目を輝かせ、大人たちは静かに涙を浮かべた。
長老がトオルの前に跪き、
「あなたは……私たちの新しい希望だ」
トオルは照れくさそうに頭を掻いた。
「僕、ただ……みんなが笑顔になってほしいだけだよ」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……また、新しい家族が増えたわね』
基地の広場は、テントの灯りと焚き火の火で温かく照らされた。エルフの歌が静かに響き、自衛隊の隊員たちが一緒に食事を囲む。煉獄が大声で笑い、しのぶが微笑み、カナエがお茶を配る。炭治郎が子供たちに肉を分け、善逸が冷静に配置を調整し、伊之助が「もっと食え!」と叫ぶ。
地上に降り立ったエルフたちは、初めての平和な夜を迎えていた。
トオルはみんなの笑顔を見て、胸が温かくなった。
「よかった……みんな、幸せそう」
人類史上最大の魔法使いは、深淵から救った命を、地上の温もりに繋げていた。
霧の港町は、新しい住民を迎え、静かに息づき始めた。