杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内自衛隊基地の仮設キャンプは、テントの灯りと焚き火の温かさで、夜の霧を優しく照らしていた。エルフたちは人間の毛布にくるまり、初めての地上の空気に戸惑いながらも、静かに感謝を口にしていた。子供たちはあばれうしどりの煮込みを頰張り、大人たちは長老を中心に輪になって座っていた。
長老のエルフ女性――銀髪に深い緑の瞳を持つエレンディル――は、トオルの前に静かに膝をついた。彼女の後ろには、弓を背負った戦士たち、杖を持った魔法使い、子供を抱いた母親たちが並んでいる。
「トオル……そして人間の皆さん」
エレンディルは深く頭を下げた。
「私たちは、ただ助けられるだけの存在でいるのは、心が痛い。あなたたちに命を救われ、地上の温もりを与えられたのに、何も返せないままでは……エルフの誇りが許さない」
トオルは杖くんを握りしめ、優しく首を振った。
「そんな……僕、ただ助けたかっただけだよ」
エレンディルはゆっくりと顔を上げ、静かに続けた。
「だから、申し出たい。私たちエルフの戦士たちは、ダンジョン内での協力を自衛隊に捧げたい。トオルくんのように深い階層は無理だが……二十階程度なら、一人でも探索できる。三十階までなら、自衛隊の皆さんと共に戦えるはずだ」
周囲の自衛隊員たちが、息を飲んだ。煉獄杏寿郎三佐が大きく目を丸くし、
「うむ……! それは本気か?」
エレンディルは頷いた。
「本気です。私たちは弓と剣に長け、簡易ながら回復魔法や攻撃魔法も扱える。森の精霊と共鳴し、隠密行動も得意だ。ゴブリンや小型の魔物なら、容易く対処できる。人間の銃火器と組み合わせれば、三十階までの安全が飛躍的に上がるはずです」
長老の隣にいた若いエルフの戦士――金髪に鋭い瞳の男性、リンディル――が、弓を握りしめて進み出た。
「私一人で二十階を往復したこともある。三十階なら、隊を組めば……」
胡蝶しのぶが蝶のような微笑みを浮かべながら、目を細めた。
「ふふ……面白い提案ですわね。トオルくんが助けたエルフたちが、今度は私たちを助けるなんて」
胡蝶カナエが穏やかに頷き、
「あらあら、回復魔法があるなら、負傷者の治療も早くなるわ。素晴らしい協力ね」
炭治郎が静かに拳を握った。
「僕たちも、三十階まで行けるようになる……トオルくんを守るためにも、エルフの皆さんの力、借りたいです」
トオルはみんなの顔を見て、胸が温かくなった。
「うん……エルフさんたち、一緒に戦ってくれるの? 僕、嬉しいよ。でも、無理しないでね。傷ついてほしくないから」
エレンディルは優しく微笑んだ。
「ありがとう、トオル。私たちは、あなたに命を救われた。あなたを守るためなら、どんな危険も厭わない」
リンディルが弓を掲げ、
「私たちの魔法と弓で、皆さんを支えます」
自衛隊の面々は、互いに視線を交わした。煉獄が大きく頷き、
「うむ! 受け入れよう! 総理にも報告する。エルフの戦士たちを、正式に協力者として迎え入れる!」
基地の広場は、静かな歓声に包まれた。エルフの戦士たちが弓を構え、魔法の光を小さく灯す。人間の隊員たちが銃を肩にかけ、握手を交わす。
トオルは杖くんを抱きしめ、笑顔で言った。
「みんな、一緒にがんばろうね」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……また、新しい絆が生まれたわね』
仮設キャンプの焚き火が、夜空に優しく揺れた。エルフの歌が静かに響き、自衛隊の隊員たちが一緒に食事を囲む。地上と深淵の住人たちが、初めて手を繋いだ夜だった。
日本政府は、この申し出を受け、異種族保護法の制定をさらに急いだ。エルフの協力は、三十階までの探索を劇的に変えるだろう。
人類史上最大の魔法使いは、深淵から救った命を、地上の新たな力に変えていた。
霧の港町は、静かに、しかし確実に、異世界と現実が交わる場所へと変わり続けていた。