杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内自衛隊基地の広場で、十八メートルのRX-78-2ガンダムとMS-06SザクII S型が静かに佇む姿は、翌朝には全国に衝撃を与えていた。
NHKの朝のニュースが最初に報じた。
「本日未明、北海道岩内町の自衛隊基地に、突如として巨大な人型ロボット二体が出現。関係者によると、八歳の少年・佐藤トオルくんが『創造魔法』で作り出したものだという。ガンダムとザクの姿は、アニメ『機動戦士ガンダム』とほぼ同一で……」
映像が流れる。白と赤と青のガンダムが資材を軽々と持ち上げ、エルフの子供たちを掌に乗せて遊ぶ姿。赤い彗星のザクが、薪の山を運び、焚き火の前に立つ姿。カメラは震え、記者の声が上ずっていた。
「全長十八メートル……これが、子供の手で生み出されたのです!」
全国の子供たちは大喜びだった。
小学校の校庭では、男子たちが「ガンダムだ! 本物だ!」と叫び、女子たちは「ザク、かっこいい!」と目を輝かせた。玩具屋はガンダムのプラモデルが即完売し、親たちは困惑しながらも笑顔で買い与えた。
だが、一番熱狂したのは、大人たちだった。
特に、ロボットアニメのスタッフと、漫画家たち。
東京のスタジオでは、富野由悠季がテレビの前に釘付けになっていた。原作者の目は、信じられないものを見るように大きく見開かれていた。
「……俺のガンダムが……本物で、動いてる……?」
彼は即座に秘書に電話をかけた。
「北海道の岩内へ行く。飛行機を手配しろ。すぐにだ!」
同じ頃、他のアニメ制作会社では、スタッフたちが徹夜でスケッチを始めた。「あれを参考に、新作のメカデザインを……」「いや、まずは見に行かないと!」と叫び合う声が響く。
漫画家たちの反応は、さらに激しかった。
ロボットや戦闘機を専門に描くベテランたちは、原稿を放り出して「俺も行く!」と叫び、若手たちはSNS(当時はまだなかったが、業界内の噂で)で「本物のガンダムが動いてるってマジかよ……」と興奮の電話をかけまくった。
海外の反応は、もっと深刻だった。
アメリカの軍事企業――ロッキード・マーティン、ボーイング、ゼネラル・ダイナミクス――の重役たちが、緊急会議を開いた。
「十八メートルの人型兵器……しかも、子供が魔法で作った? 重量は? 強度は? ミスリルと同じ素材か?」
投資家や財閥、富豪たちは、プライベートジェットを飛ばして日本へ向かった。ウォール街のヘッジファンドのマネージャーは「これを買えれば、世界が変わる」と呟き、スイスのプライベートバンカーは「トオルくん個人への投資を検討せよ」と指示を出した。
だが、日本政府は即座に「基地内立ち入り禁止」を強化した。外務省は各国大使館に「国家機密につき、視察は認められない」と通告。マフィアのボスですら出禁を恐れて静かにしている中、富豪たちが押し寄せても、門前払いだった。
基地では、トオルがガンダムとザクの足元で、エルフの子供たちと遊んでいた。
「ガンダムさん、こっち来て!」
ガンダムがゆっくりと膝を折り、掌を差し出す。子供たちが乗って歓声を上げる。ザクはモノアイを赤く光らせ、薪を運びながら静かに見守る。
トオルは杖くんを抱き、みんなの笑顔を見て微笑んだ。
「みんな、喜んでくれてる……よかった」
杖くんが優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたの夢が、日本中を、世界中を、動かしてるわ』
富野由悠季は、岩内へ到着した。基地の外から、霧越しに巨大なガンダムを見つめ、静かに呟いた。
「……俺の描いたものが、生きてる……」
漫画家たちはスケッチブックを広げ、熱狂的に描き始めた。
海外の重役たちは、門前で悔しがりながらも、引き下がった。
「子供が作った……それが本当なら、俺たちの技術は時代遅れだ」
基地の広場では、ガンダムとザクが静かに立ち、子供たちの笑い声が響く。
トオルはみんなを見て、胸が温かくなった。
「僕、もっと作ろうかな……みんなが喜ぶもの」
人類史上最大の魔法使いは、八歳の心で、アニメの夢を、現実の奇跡に変え続けていた。
霧の港町は、鋼の巨人の影に守られ、静かに未来へと歩み続けていた。