杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内自衛隊基地の広場に佇む二体の鋼の巨人は、すでに世界を変え始めていた。
トオルが創造魔法で生み出したRX-78-2ガンダムとMS-06SザクII S型。全長十八メートル。アニメ『機動戦士ガンダム』そのままの姿で、静かに資材を運び、エルフの子供たちを掌に乗せて遊ばせ、大型モンスターの肉塊を軽々と持ち上げる。その姿が全国放送で流れた瞬間、軍事企業の研究室は一斉に火を噴いた。
「二足歩行の十八メートル巨体……不可能だと信じられてきた技術が、現実に存在する」
アメリカのロッキード・マーティン、ボーイング、ゼネラル・ダイナミクス。ヨーロッパのダイムラー・ベンツやエアバス。ソ連の軍事設計局。中国の新興兵器企業。どの重役も、映像を何度も巻き戻し、息を飲んだ。
「同じ物は作れなくても……その技術を応用できないか」
研究が始まった。戦車を超える機動兵器として。ガンダムの関節構造、ザクのモノアイセンサー、歩行安定機構――すべてを解析し、既存の戦車や歩兵装備に応用するプロジェクトが、世界中で極秘に立ち上がった。
そして、歴史の闇に葬られた核搭載型戦車――シャゴホッドの影が、再び浮上した。
ソコロフ博士が設計した螺旋推進(オーガー)を持つハイブリッド車両。全長約二十三メートル、高さ約八メートル、幅約六メートル。重量百五十二トン。後部にIRBM(中距離弾道ミサイル)を搭載し、ロケットブースターで時速八十キロまで加速してミサイルの射程を延伸する。重機関銃、対空ミサイル、自衛武装を満載した、冷戦時代の狂気の産物。歴史から抹消されたはずの核搭載戦車が、ガンダムとザクの出現により、再び各国で類似開発計画として蘇った。
「シャゴホッド級の移動核プラットフォームを、二足歩行で実現できないか」
アメリカ国防総省は極秘予算を割り当て、ソ連はKGB主導で設計局を動かし、ヨーロッパ各国も「防衛目的」として研究を開始した。中国も、影で同様の計画を進めていた。ミスリルと組み合わせれば、十八メートルの核搭載二足歩行兵器――世界を支配しかねない存在が生まれるかもしれない。
岩内では、そんな世界の動きなど知る由もないトオルが、ガンダムとザクの足元でエルフの子供たちと遊んでいた。
「ガンダムさん、こっち来て!」
ガンダムがゆっくりと膝を折り、掌を差し出す。ザクのモノアイが赤く光り、子供たちが歓声を上げる。
トオルは杖くんを抱きしめ、優しく笑った。
「みんな、喜んでくれてる……よかった」
煉獄杏寿郎が遠くから大声で笑う。
「うむ! この二体のおかげで、三十階の運搬が楽になったぞ! トオル、よくやった!」
胡蝶しのぶが微笑みながら、
「ふふ……世界中が騒いでるそうですわ。でも、トオルくんはただ、みんなを助けたいだけなのですよね」
胡蝶カナエが穏やかに頷き、
「あらあら、子供たちの遊び相手にもなってるわ。素敵ね」
エルフの長老エレンディルが、銀髪を風に揺らしてトオルを見つめた。
「あなたが作った鋼の巨人……私たちの世界にも、伝説の守護神がいたわ」
トオルは少し照れくさそうに頭を掻いた。
「僕、ただアニメみたいにカッコいいのが作りたかっただけだよ……でも、役に立ってるなら嬉しい」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたの夢が、世界を動かしてる。でも、あなたの優しさが一番大事よ』
基地の外では、霧の港町が静かに息づいていた。ガンダムとザクの影が、長く伸びる。
世界の軍事企業は、鋼の巨人に火を点けられ、狂ったように研究を進めていた。シャゴホッドの亡霊が、再び闇から這い出そうとしていた。
だが、トオルはただ、子供たちと一緒に笑っていた。
人類史上最大の魔法使いは、八歳の純粋な心で、夢を現実に変え続けていた。
その影が、世界をどこへ導くのか――まだ、誰も知らなかった。